百貨店、爆発する【20】
私からするのであれば、しれっと答えているフラウに叫んでやりたい!
そこまで分かっているのなら……ここで一々説明するまでもないだろう!……と!
「オモチャだお?」
そして、余計な事を言ったフラウには、ちょっと話をして置きたい!
案の定、アリンのテンションが無秩序に上昇しているのが分かった。
これまで、大した興味も無かったけど……周囲いいる面々が楽しそうにキャイキャイとあれこれやっていたのを見て、敢えて静かに待つと言う形を取ったお利口な愛娘であったが……ここに来て、お利口な自分に別れを告げそうな勢いで目の色を変えて来た。
まずい……これはいよいよ危険だ!
「うん、そうだね? きっとアリンちゃんが欲しくなりそうな物が一杯置いてあるよ? ふふ、楽しみだね?」
余計な事を言わないでくれないっ!?
ニコニコと微笑みながらアリンへと語るフラウに、私は一抹の殺意すら抱いていた。
アリンの事だから、あれもこれも全部欲しがるに決まってるっ!
この子の物欲は、食べ物とオモチャで大半を占めていると見て良いんだからっっ!
それだけに、私としてはオモチャ売り場だけは何としてでも回避したい気持ちで一杯だったのだ。
しかしながら、
「そうか、このフロアはアリンちゃんの独壇場なんだね? あはは! そうだね? みんなが楽しめる場所って考えると、百貨店って素敵なお店だねー」
悠長な事を朗らかな微笑みとセットでのたまうルミ姫様と、
「総合化した店舗と言うのが、これだけ良い気分転換になるとは私も思いませんでした。良いですね、百貨店。私の国にも一店舗ぐらいはあっても良いのではないでしょうか?……あ、もちろんアリンさんの楽しみを取ってはいけませんね? もちろん行きましょうか?」
密かにソワソワした状態で賛同するルゥの二人がいたりもする。
ルミの場合は、根本的に興味はなさそうではあったが……ルゥの方は少し興味がある模様だ。
ふふ……少し大人びているルゥだったけど、実際にはまだ子供な部分もあったと言う事か。
尤も、ホビーとかの類いは大人でも楽しめる要素は盛りだくさんで、ミニチュアや模型の類い辺りはむしろ大人の方が子供よりも楽しんでいる傾向にある。
オモチャは子供だけが遊ぶ代物なのかと言うのなら、それはやっぱり偏見と言う物だろう。
尤も……ミニチュアや模型を心から愛している者からするのであれば、オモチャ扱いされる時点で不本意極まる話なのかも知れないが。
……って、そうじゃないっ!
模型マニアの方には申し訳ないが、私の主旨はそこではないのだ!
「アリンのテンションを考えると、絶対に骨が折れるんだよ……頼むから、ここは後日って事にして置かないか?」
私は周囲の面々に懇願する形で口を開く。
絶対に面倒な事になる事が目に見えているからな。
しかし、私の願いは周囲の面々に届く事はなかった。
「リダ……自分だけ興味のあるフロアにはしっかりと行ってる癖に、自分の娘が楽しめる場所には行かない……なんて、ちょっと自分勝手過ぎない? ここは公平に考えて、ちゃんとオモチャ売り場にも行くべきだよ」
懇願する私に、フラウは眉を捩って反論し、
「そうだよリダ! ここはアリンちゃんのフロアだよ? 自分の娘が楽しむ姿をみたくないのっ!? 親として良心の呵責を覚えない?」
更にルミがフラウの言葉に大きく賛同した挙げ句、私の良心に強い呼び掛けまでして来た。
私の胸に突き刺さる様な……まさに致命的な一打と言えるだろう。
だが、これだけに止まらず……更に更に、ルゥがだめ押しの反論を私にして来る。
「リダさんは子供が嫌いなのですか? そこまでしてアリンさんの楽しみを奪うつもりですか? これは由々しき問題です! 親であるのであれば、子供の楽しむ姿こそが宝じゃないですか? 言うなれば、大切にしなくてはならないかけがえの無い物です!」
……ああ、もう!
分かりました! 行くよ! 行けば良いんでしょうっ!?
結局、私の取った回避策は周囲のメンバーから大きな非難を浴びるだけで終わってしまうのだ。
割りと好き勝手に私を悪役へと仕立て上げているみたいだけど……私だって好きでこんな事を言っている訳ではないんだぞ?
うちの家計を考えると……もう、かなり限界に到達しているからなんだぞっ!?
地下では予算をスペシャルオーバーした食材を購入する事になるし……一階の貴金属は自分のお金を消費こそしなかったけど、冷静に考えればかなりの無駄遣いになりそうだったし……二階でもコップとか買ってたんだ、私は!
三階でもやっぱり、自分とアリンの服を何着か買っている。
まどろっこしい事は言わない! ズバリ極論に出よう!
もう金がないんだっ!




