百貨店、爆発する【19】
それにしても……大悪魔の癖に、ファーストフードで仲良くバアルの話をするんだな。
元来であるのなら、どちらも魔王格の二人だと言うのに……やってる事は、近所でジャンクフード食べながら和気藹々と雑談しているんだから……なんて言うか、トウキは平和だな。
きっと、お供も付ける事なく悠々とお喋りに華を咲かせていたんだろうから。
正直、良いのか悪いのかで少し悩む様な事を普通に話していたアシュアの言葉に、私はどんな態度で返答をするべきか? 少し悩んでしまっていた中、
「うぅぅぅ……まだ、欲しいのが一杯あったのにぃ……」
口を尖らせて不平のオーラをこれでもかと言うばかりに放つルミが、私達の元へとやって来た。
「そんな物、後でまた来れば良い事です。この街はとても治安が良いので、私達も大した護衛を必要とする事なく、伸び伸びとショッピングを楽しむ事が出来るんですから」
頬っぺたとフラストレーションをパンパンに膨らませていたルミに、ルゥがピシャリと言い返してみせる。
本当に、どっちが母親でどっちが娘なのか良く分からなくなる光景であった。
なんにせよ、これで次に行く事が出来るな。
「よし、じゃあ今度こそ次に回ろう。それじゃバアル、アシュア。またな?」
不満のオーラがグォグォと渦を巻いていたルミが渋々ながらも戻って来たのを確認した所で、私は再びアシュアとバアルの二人へと右手を振った。
「待って下さい! もちろん私も行き……もがもごぉぉぉっ!」
「行ってらっしゃいリダ様! さぁ、早く! 私の中の獣が覚醒しない内に!」
いつの間に付いたんだ? そんな中二設定。
良くは分からないが、虚を突く形で再びバアルの束縛に成功したアシュアを尻目に、私達は次のフロアへと向かって行くのだった。
◎○●○◎
以後はとりとめの無い時間が、のんべんくだりんと過ぎて言った。
言う程、大した事はなかったので、四階まではハイライトで述べて置こう。
二階の生活用品メインの所では、無駄に高級な鍋を買うかどうかでフラウが悩んでいた位だったが、最終的には購入を断念していた。
三階は服のフロア。
基本的に婦人服と紳士服がそれぞれ別のコーナーで販売すると言う形だ。
私としては夏も本番になって来たので薄地のブラウスやシャツなんかを購入しようかどうかで悩んでいた。
他方、ルミは神妙な顔をして『うぅぅ……ブラが高い。無駄に高い。しかもデザインも微妙』とか言っていた。
聞こえない聞こえない……なんも聞こえない。
近くにいたフラウも両手で両耳を押さえつつ『私は値段も手頃で可愛いの選べる幸福な女!……そう、そう思うべき所だよ……ブラのサイズが大き過ぎて価格が高い癖に選択肢が少ないルミを可哀想と思わないとダメ……そう、そうなんだよ! そう考えるべき!』とか、自分に言い聞かせる感じの台詞を口から呪文の様に吐き出していた。
そんなフラウを見た所で、実は似た様な態度を取っていた私がいた事に気付き、こんな所に反面教師がいたなと自覚する。
うむ! 私はちゃんと聞こうじゃないか!
……でも、ちょっとトイレに行こうかな? そ、そう! これはトイレに行きたいと言う生理現象がたまたま発生しただけなんだ! 決して現実逃避をしている訳ではないのだからなっ!?
結果……私は無駄にトイレへと向かい……そして、似通った形でフラウまでトイレにやって来ると言う謎現象が発生し……結局、ここでも庶民派な私達は同じ様な行動を取ったと言う顛末を迎える。
まぁ、たまにはこんな事もあるよな?
庶民派とか関係ない気がするけど、そこは考えたら負けなので、敢えて無心になろうと思う。
この他にも『リダ様! このバアルめが、リダ様にピッタリのランジェリーを見立てますぞぉぉぉっ!』とか言ってた変態社長がいたが、部下の専務に縄で捕縛されて何処かに居なくなっていた。
どうやら、とうとう縄まで用意されていた模様だ。
それはそれで用意周到と言えるんだが……そこまでするか? 普通?
なんにせよ……この様な形で、そこまで大きな波乱が起こる事なく、みんなでデパート巡りを楽しんでいた。
だが、しかし。
「なぁ、みんな? 次の階層は飛ばして次に行かないか?」
私は、かなり神妙な顔になってみんなへと提案する。
それと言うのも……だ?
「次の階層? うんっと、オモチャ売り場だっけ? 私は別に構わないけど……アリンちゃんのテンションが一番上がりそうな所じゃない? さっきまで私らだけ楽しんでて、アリンちゃんは静かだったし」
なんぞと言うフラウの台詞が全てを語っていた。
……そう。
次の階層は、大きな波乱が予測されるカオスの階層なのだ!




