百貨店、爆発する【17】
「所で、さっきから少し気になっていたのですが、アシュア専務の隣にいらっしゃる少年は誰ですか? アシュア専務の弟さんにしては、少し様子と言いますか……専務の態度が不自然な気もするのですが……?」
そこから店員さんはそれとなく私へと尋ねて見せる。
特段、物凄く気になると言う訳ではないのかも知れないが、ちょっとした興味程度の感覚で私に聞いているのかも知れない。
まぁ、ここの店で仕事をしているのであれば、知っておいて損はないだろう。
それにしても、専務の名前や顔はちゃんと末端社員にも覚えられているんだな。
アシュアの存在感が高いと言うべきか?
そして、社長の存在感と言うか……カリスマは薄いんだな。
「ここの会社の社長かなぁ……と」
「…………え?」
店員さんはコキーンッ! っと石化した。
きっと、思いも寄らない衝撃の事実だったのだろう。
「な、なんでウチの社長が来てるんですかねぇ? ちょっと……いえ、かなり驚いたんですがっ!?」
私が知るかよ……そんな事。
「と、ともかく分かりました……粗相のない様に精一杯対応させて頂きます」
いや、あんたはそこまで考えなくても大丈夫だと思うぞ?
だって、バアルだし。
バアルの正体と言うか、この会社の代表取締役である事実を知った店員さんが無駄にパニクってしまう中、私は適当にバアルへと声を掛けてその場を後にしようとした。
「じゃあな、バアル? 食事の予定は未定って事で良いな? 私はもう少しこの店を見て回るから」
「はい! お気を付けてどうぞ! 食事の予定は未来永劫の未定と言う事で問題ありませんので!」
適当に声を掛けた私へと真っ先に返答して来たのはアシュアだった。
さっさとどっかに行ってしまおうとしていた私を見た瞬間、バアルが『ちょっと待って下さい!』って感じの台詞を言おうとしていた直前にアシュアが素早くバアルの口を塞ぎ、代わりに返答をしていた感じだった。
結果的にバアルは『ふがふごふごぉぉっっ!』って感じの、意味になってない言葉を口からひねり出すだけの状態になっていたんだが、腕力的にはアシュアを上回っていたらしく、強引に塞がれていた口を力で振りほどいては、
「待って下さいリダ様! 食事については本日の夜にでも! ふがふごふごぉぉっっ!」
素早く私に言い放ったのだが、やっぱり再びアシュアに塞がれていた。
……なんでお前らは、そこまで身体を張ったボケをしているんだ?
しかも、微妙に気合いが入っていると言うか……振りほどこうとする方も、口を塞ごうとしている方もかなり本気でやっているみたいだし。
「さぁ! リダ様! ここは私に任せて! 早く二階に行って下さい! 早くっ!」
しかも、かなり必死の形相になってアシュアが私に叫んでみせる。
その姿は、あたかも『ここは俺に任せろ! お前達は先に進むんだ!』的な、往年の少年漫画的なノリだった。
元来、こう言った『後は任せた!』的なシチュエーションは、かなりシリアス度の高い場面で引用される事が多い代物ではあったのだが、現状におけるシリアス度は全くの皆無だった。
なんならマイナスなんじゃないだろうか?
どちらにせよ、私はそろそろ次の所にでも行こうと思っていたから、それはそれで構わない話ではあるんだが。
「行こうかフラウ、アリン。それとルミやルゥはまだ買い物の途中なら後で落ち合おう。場所は何処が良いかな?」
「リダさん達が違うフロアに向かうのなら、私達も次のフロアに行きますよ? 貴金属だけではなく、他の物もリストの中に書き記して置く予定ですしね?」
まだ買うつもりでいたんだなぁ……。
いや、雰囲気からすると、むしろこれからが本番と言いたげだった。
これだから王族は……。
特に文句を言うつもりではないんだが、絶対王政における国の王様はやっぱり金持ちなんだなぁ……と、今更ながら痛感させられた。
きっと、ニイガ王からすれば、ここの高級品もたんなる雑費で賄えるレベルなんだろう。
そう考えると……なんと言うか、自分の存在が凄まじくみすぼらしく感じてしまうなぁ……。
…………。
いや、そこは比べる所を間違えているだけか。
深く考えたら負けって事にして置こう。
「……そうか。それじゃあ、みんなで次に行こうか」
「了解しました。では、そこのショーケースにへばり付いているマムにも声を掛けて来ます」
ルゥは頷いて間もなくルミの元へと小走りに向かって行った。
そしてルミをこっちに連れて来ようとするも……ルミは口をへの字にして渋い顔になって抵抗する。
どうやら、まだまだ欲しい物を厳選したい模様だ。
そしてルミをこちらに連れて来るのに、少しばかり時間を必要をとする事も、大体想像できた。
恐らく、ルゥが『そろそろ行きますよ?』と言った所で、ルミが『えぇっ! まだ見たいのがあるから待ってよーっ!』って感じでごねているんだろう。
全く……どっちが母でどっちが娘なのか分かった物じゃないぞ。




