百貨店、爆発する【16】
「あ、ちょっ……リダ様! お待ち下さい! パンツは冗談です! 冗談ですけど……その、食事程度なら誘っても良いですよね? 本当、何も疚しい真似とかしませんから! やったらその場で爆破しても構いませんから! なんなら、誓約書を書かせて頂いても結構ですよ!」
直後、バアルがこれでもかと言うばかりに必死で狼狽えながらも私に叫んで来た。
……ふむ。
悪魔が誓約書を口にすると言う事は、信じて良い様な気がする。
ただし、誓約書にサインをする時は、隅々までキチンと読む必要があったりもするんだがな?
反面、誓約に基づく行動をするのは、悪魔にとって最低限度のマナーであり、暗黙のルールだ。
挙げ句、かなり徹底しているのか? 誓約に基づく事に違反した者には死よりも恐ろしいペナルティーが発生する事も珍しくはない。
つまり、裏を返せばバアルはそれだけ私に対し真摯に対応していると言う事だ。
「食事か……まぁ、その程度で良いのなら、考えてやらん事もないぞ? 但しお前持ちな?」
こっちは日常の食費すら厳しい毎日を送っているんだからな?
「もちろん! 当然、自分が補填させて頂きます! リダ様の懐は一銭たりとも使わせません! ここも誓約書に誓わせて頂きます!」
なるほど、これは大丈夫そうな話だな?
「それと、アリンも連れて行くぞ? この子の腹はブラックホールだからな? 高い所に連れて行くと一般家庭であるのなら一家心中すら視野に入る程の大飯食らいだからな? 覚悟しておけ?」
「アリンもですか?……いや、お金の方は問題ないのですが、雰囲気と言うか……その、二人きりが……あああああっ! わ、分かりました! アリンの同行も認めましょう! 要はリダ様と楽しく食事を楽しむ時間を設けたいだけなのですから!」
少し難色を示したバアルだったが、間もなく私が『じゃ、そう言う事で』的な感じで右手を振りだすと、すかさずOKを出すバアルがいた。
もはやヤケクソ状態にも見えるな。
なんにせよ……そこまで言われたのなら仕方ない。
「分かったよ……それじゃあ、後日にでも何処か美味しい店に連れて行ってくれ」
「ほ、本当ですか! や、やったぞ! 遂にリダ様との甘い時間を手に入れた! これは人類にとって小さな一歩であっても、自分にとっては大きな一歩だ!」
やや妥協混じりに頷く私がいた所で、バアルは今にも小躍りする勢いで喜び、謎の発言までしていた。
ただ一緒に食事をするだけの事で、どうしてそこまで大仰な真似をする事が出来るんだろうねぇ……コイツは?
どうにもリアクションが派手なバアルを見て、私が思わず苦笑していた時、
「いけませんバアル様! リダ様は多忙の身なのです! 如何なバアル様とは言え、一緒に食事など……羨ましいので私も行きます!」
羨ましいのかよっ!?
冷静に考えると、かなり支離滅裂とした台詞を大声で放っていたのはアシュアだった。
まぁ、コイツがここにいる事は知ってたよ。
なんと言うか、ユニクスがここの地下でバイトをする理由にアシュアの名前が出ていたからな?
「アシュア専務っ!? お、お疲れさまです!」
直後、バアルが購入したボンボンを包装し、私に渡そうとしていた店員がスペシャルかしこまった状態でアシュアへと頭を下げていた。
……ふむ。
そう言えば、バアルの台詞にも『我が社』とあった通り、この店は株式会社・ベルゼブブの作った店でもあったな。
そうなれば、アシュアはこの店ではかなり偉い存在になるんだろう。
なんて事だ! 悪魔が人間の世界でも幅を利かせる様になるなんて!
くそ、世も末だぞ……誰だ? こんなおかしな世界へと導いたバカは?
…………。
畜生! あたしだよ!
い、いや……しかしだな? こう言う悪魔も人間も常に平等と言う社会が、元来であれば望ましいとは思うんだ。
うむ! そう言う事にして置いてはもらえまいか!
閑話休題。
「バアルは知らないのに、アシュアは知ってるんですね?」
私はちょっとだけ苦笑混じりに店員へと答えた。
特に意図している訳ではなかったのだが、聞き方によっては皮肉にも聞こえてしまい兼ねないからだ。
ただ、店員さんからすれば皮肉には取れなかったらしく、
「アシュア専務は、私の憧れなんですよ? 私とそこまで年齢も変わらないと言うのに、ウチの会社で専務にまで登り詰めている凄い人なんですから?……ああ、それに綺麗で上品で格好良い……これで憧れないのなら、その人の感性を疑っちゃいますよ?」
店員さんは、ぽーっと頬を高揚させながら答えていた。
きっと心の底から尊敬しているのだろう。
自宅では、バアルの部屋へと無許可で侵入しては、日々リダレンジャーと格闘する、残念なお姉さんなんだけどな?




