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百貨店、爆発する【13】

 そんな時だった。


「か~たま、か~たま! これ、可愛いお~! 欲しいんだお~!」


 例によって、何でも欲しがる強欲の三歳児が、またもや母親にねだると言う分かりやすい構図を展開して来た。


 全く……お前には、地下の食品売り場で高級なカニを買って上げたろう?


 しかも、帰ってから皆でパーティーする事になっちゃって……カニだけでは寂しいパーティーになるから、他の食材とかもどっさり買って……結局、なんだかんだで二万マール以上は使っているんだから……。


 心の中で、通路の地面が沈むんじゃないかと言うばかりの吐息を重々しく吐き出しながらも考える私がいた。

 本当に、今度は何が欲しいと言うのか?

 こんな食べられる物がない様な所で、アリンの興味の惹く商品が売られているとは思え……ん? おお、なんだ? 可愛いではないかっ!?


 アリンが指をさしていた物を視線で追って間もなく、私も大きく興味を惹かれた。


 そこにあったのは、ボンボンだ。

 正式名称は知らないが、私はこう呼んでいる。

 軽く説明すると、髪を結うのに使用するゴム紐の両端にアクセサリーが付いている小物だ。


 私とアリンの二人は、互いに同じ髪型で同じ髪質をしている。

 これぞ、親子の絆と言うべきかな?

 私と同じ髪質であり、色まで同じ銀髪だ。


 だからと言うのも難だが、親子揃ってツインテールにし、頭の両端にボンボンをつけている。


 今時、ツインテールもないだろう……って?

 良いんだよ! 私はトラッドな人間なんだから!

 流行とかに左右される事なく、自分で気に入った髪型を徹頭徹尾貫く女なんだよ!


 そこはともかく。


「なるほど、これは確かに可愛いなぁ? 私も欲しいかもだ? どれ? 値段は……と?」


 軽く値札を見ると……うぁ、三千もするのか? これ!

 普通、雑貨屋あたりで売ってるボンボンなんて、精々五百マールぐらいの値段だって言うのに……やれやれ。


 隣で見ていたフラウも、値札を見て『うぁ……』って顔になっていた。

 やっぱり庶民派は違うな? ボンボンに三千マールはやっぱり高いと感じる! それがキングオブ庶民の発想だ! もちろん、私も同じだっ!


 しかし、買えない値段ではない。


 二つとなれば、ちょっとお高い買い物になってしまうかも知れないけど……まぁ、せっかく初めてのデパート巡りをしている訳だし、記念に一つぐらいは形になる物を買っても良いんじゃないかなぁ……と思う。


「よし、それ買おっか? か~たまとお揃で二つ!」


「お? おぉぉぉっ! やったぁっ! ケチんぼなか~たまが、一回頼んだだけで直ぐに買ってくれたお~っっ!?」


 だから、か~たまはケチんぼじゃないからねっっ!?


 純朴な笑みを溢れんばかりに作りつつ……歯に衣を着せぬ台詞を臆面もなく言い放つアリンに、私はちょっとだけ切ない気持ちにさせられた。

 私だって、可能であればアリンの欲しい物を買ってやりたいんだ。

 しかし、財布が『無理です!』って言うんだ。

 ケチなのは私ではなく、私の持っている財布なんだ!


「じゃあ、行こっ! 早く早くぅ~!」


 元気一杯にはしゃぎながら叫んでいたアリンは、少しでも早く欲しいのか? 私の右手を握っては、グイグイと引っ張って見せる。

 そこまで急かなくても、商品は逃げやしないから大丈夫だぞ?


 私は苦笑しながらも胸中で考えつつ、


「え? リダ? あれを買うの? しかも二つも?」


 品物が並べられているショーケースの前にちょうどいた店員さんへと手招きした所で、フラウが愕然とした顔のまま私へと声を出して来た。


 ……?

 

「なんだよ、フラウ? お前も貧乏性だなぁ~? 幾ら私でも、記念になる物の一つや二つ、普通に奮発して買うぞ? 確かに少しばかり値が張るかもだけど、だ?」


 やおら派手に驚くフラウに、私はハテナを頭上に浮かべた状態で言って見せる。

 そうこうしている内に、スタッフさんがやって来た。


「はい、どうされましたか?」


 スタッフさんはにこやかに、かつ礼儀正しい態度で私へと答える。

 うむ、接客も抜群ではないか! 流石はお高い物をスラリと並べている高級店だけあるぞ!

 

 軽く感心する私。

 やっぱり、気持ちの良い接客をされると、私の気分も良いよな?


「このアクセが付いてる髪止め用のゴム紐が欲しいんですが、良いですか?」


「はい、かしこまりました!」


 私の言葉に、ハキハキと丁寧に頷く店員さん。

 うむ! やっぱり気持ちの良い接客をしているな!


 少し良い気分になっていた時、再びフラウが助言する。


「リダ、正気なの? そんな、三万もするボンボン……記念とか言ってヒョイッ! っと買うのなんて、貴族か王族だけだと思うんだけど?」


 何言ってるんだ、フラウ? ただのボンボンが三万もする訳ないだろう?

 大体、そんなアホな物を買うバカなんて…………え? いや、待て? 桁がおかしい……えぇと?


「あああ! ちょっと待った店員さん! 実は持病の母が腹痛でトイレに行かないとダメになったぁっ!」


 私はその時になって初めて気付いた。

 実はボンボンの価格が三千ではなく、三万だったと言う悲惨な事実に、だっ!?

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