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百貨店、爆発する【11】

 半べそ状態で私に助けを求めている……様にも見えるユニクスを尻目に、私はなるべくカニの販売ブースから離れる形を取っていた所で、アリンとフラウの二人が戻って来た。


 機嫌が鯉の滝登り状態で最高潮に上がっていたアリンの右手には、如何にも高級そうな紙で出来た手提げの袋が握られていた。

 他方、アリンの機嫌とは対照的にテンションをどん底まで落としていたフラウが、自分の財布とにらめっこした状態で、なにやらブツブツと呟いていた。


「ああ、あのお菓子を買うだけのお金があれば、一体どんなのが買えるんだろう?……こないだ買おうと思ってたワンピとリップと……ああ、あとスキニー・パンツも買えるなぁ……ふふ……うふふふ……」


 眼前に真っ黒い人魂みたいなのを出していたフラウ。

 うむ、これも人生経験ってヤツだ。

 世の中には尋常ではない価格のお菓子があると言う事が分かって良かったじゃないか。


 ちょっと、高い授業料ではあったがな!


 何にせよ、これでアリンも満足したに違いない!

 そんだけ高級なカステラを手に入れたんだ! きっと、一秒でも早く帰宅して、美味しい紅茶と一緒に食べたいと思っているに違いないっ!


 思った私は、早々に帰宅する方向へと話のベクトルを調整しに向かうのだが、


「……ちょっと、アリンちゃん」


 そこで、ルミが少しばかり意味深な微笑みを浮かべてアリンを手招きしていた。


 ……なんだ?

 妙に嫌な予感がするんだが?


 そこから、トテトテと小走りに近づいたアリンは、ルミと密談する感じで互いに耳打ちしてみせる。


 ……何を話しているんだ? マジな話っ!?

 もう、嫌な予感しかしなかった私は、即行でアリンとルミの二人へと向かうのだが、


「分かったお! 言って来りゅ~っ!」


 一拍程度早くアリンが動き、そのままピューッ! っと、何処かに行ってしまった。


 全く……何を企んでいる……ん……だ?


 逃げる様に走り去ってしまったアリンを見て、私は両腕を組みながら重々しい溜め息を吐き出すと……間もなく吐き出した溜め息をゴクンッッ! っと飲み干してしまった!


 一目散に走って行ったアリンの行き先は……まさかのカニの販売ブースだったからだ!


 ルミ! 貴様っ! 謀ったなっっっ!?


「おまっ! アリンになんて所に行かせるんだよっっ!?」


 果てしなく慌てた私がいる中、ルミはニヒッ! っと、地味に妖艶な……小悪魔の様な笑みを見せてから私へと口を開く。


「だってさぁ? 食べてみたいんだもん、カニ。私はニイガの箱入り娘って感じだったから、一回も食べた事なかったしさ? それに、リダの所でカニパーティーなんて、最高じゃない!」


 それは、お前だけなっ!

 私は困るんだよ! 猛烈に困るんだよ! 主に私の預金残高が激烈に困窮するんだよっっ!


 ああああ!

 そうこうしているウチに、アリンのヤツがユニクスからカニを一杯手渡されて、私の方に持って来たぁぁぁぁっっ!?


 笑みでやって来るアリンを見て、私はあたかも恐怖の大魔王を見るかの様な目を見せて、顔を大きく引き釣らせた!


 そして、私にとって最も危惧していた呪われし言霊ことだまを放って来たのだ!


「か~たま! カニだお! カニ! ねぇねぇ、買って買ってぇ~っ!」


 あ~聞こえない。

 ぜ~んぜん聞こえない……聞こえないなぁっ!


 満面の笑みで言って来るアリンがいた所で、私は瞬間的に回れ右をして両手で耳を塞いでみせた。

 

「やっぱりケチだおっ! 全く買ってくれないんだおぉぉぉっっ!?」


「落ち着けアリン! もっと可愛さをアピールするんだ! そして、半分は私が負担すると言う部分も強調しろ! そして、もれなく私もセットでお持ち帰り出来ますよと言うお得感を更に強調して言うんだ!」


 頬を風船の様に膨らませて怒るアリンへと、すかさず売り子のユニクスが助言めいた台詞を叫んでいた。


 半分負担したって、まだ二万じゃないか! 十分高いだろっ!? もれなく付いて来るユニクスは近くのゴミ箱にでも捨ててやるわっ!


「そうだね! カニは私も食べたいから、私も少しカンパするよ! 一万は出すから!」


 ……なぬ?

 直後に答えたルミの言葉を耳にして、私はピクッ! っと身体を反応させた。


 元々の価格が四万マール。

 ユニクスが半分出すので二万マール。

 更にルミが一万出すとなれば……私の出す金額は一万で良いのか。


 私的に言うのなら、それでも十分高い買い物ではあったのだが……しかし、実質四分の一まで価格が下がっている事と同義語だ。


 それに、価格的にみても、店舗が色々と頑張っている事は予測出来る。


 この世界の流通システムや保存技術等々を考慮すると、何かとコストが高くなってしまうのは仕方ないからだ。

 よって、トウキの街にいながらして、本場のカニを味わえると言う贅沢は、色々と文明が未発達なこの世界に置いて、かなり頑張っている事を意味していた。


 どうする? 私?

 流石に四万が一万まで落ちるとなれば、かなりのお得感を抱いてしまうんだが?


 私は思いきり苦悩する形で悩みに悩み抜いた。

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