百貨店、爆発する【8】
トウキの街に、南西大陸にある異国の銘菓が売っていたのなら、私からすれば驚きと同時に大きな好奇心を抱いてしまう。
だって気になるじゃないか?
この世界におけるカステラの価値は、金と同じレベルなんだぞ?
そんなお菓子が、もし本物だったとして……どうやってそのカステラをトウキまで運んで来たんだ?
この世界は、馬車がまだまだ主役の交通手段として使われている様な所だぞ?
まぁ、空路と言うか、飛行魔法を使って空を運ぶと言う手段もある事はあるのだが……ハッキリ言ってコストが桁違いに高い!
仮にそんな方法でガサキからトウキまで運んでいたとするのなら……当然ながらその運賃も商品の値段に入っている事になる。
その他、特殊な保存方法なんぞも必要となるだろう。
これら諸々を加えるのであれば、ただでさえ稀少な高級菓子であるカステラが、更にとんでもない額へと値段が跳ね上がってしまう事は必死だ!
そして……それだけの価値があるお菓子と聞けば……嫌でも思ってしまう。
どんな味がするんだろうなぁ……? と!
出来れば私も食べてみたいぞ!
フラウがアリンの為に買ってくれるのなら、私も少しはお裾分けを貰えると思うし? いや、貰うし!
「なんか悪いなぁ……フラウ。うちのアリンの為にそんな事までしてくれてさ?」
「別にリダに買って上げる訳じゃないんだから、そこまで喜ばなくて良いよ?……ま、私も一切れぐらいは貰おうと思ってたしさ?」
苦笑混じりに低姿勢で答えた私へと、フラウは片眉を捻って答えていた。
くそ……台詞的には間違ってないけど、態度的に腹立たしい!
だが、ここは我慢だ! ぐぐっと我慢して置こうか!
私は笑みを作り……右手拳をギュッ! っと握りながらも、言いたい文句を超絶必死で我慢してみせた。
一頻り無意味な優越感に浸るフラウは、妙に勝ち誇った顔のままカステラ屋の前に向かう。
「上位ワイバーンの討伐報酬を得ている私からすれば、単なるお菓子の一つや二つ大した事…………あるよ? あるでしょっ! え? なにこれ、たっか! 一つ10万マール? お菓子と言うより、おかしいよね? 根本的に色々と間違ってるよねっ!?」
そして、カステラの額を見て度肝を抜いていた。
下らない駄洒落を入れてたけど、きっとフラウなりのブラックジョークだったんだろう。
ただつまらないから、聞き流していた。
ついでに言うのなら、余りの派手な驚きっぷりに、周囲にいた通行人が驚いた顔をしてフラウを見ていたから……と言う理由もある。
簡素に言うのなら、即行で他人のフリに徹したのだ。
いや、だって……同類と思われたら嫌だし。
「ちょっとリダ? もしかしてこのお菓子の価値を分かってたの? だから、態度が丁寧だったの? ねぇ? ちょっと聞いてる?」
しかし、他人のフリをしていた私へと強引に声を掛けて来るフラウ。
ああ……なんか、名前も知らない誰かに変な顔してヒソヒソ話されてるんですけど?
きっと、そこには私もおかしな人間の一人と勘違いされてるんじゃないだろうか……通行人の皆さん! 私は普通の人間です! おかしいのは、こっちの胸ないヤツだけですから!
「ちゃんと聞いて? なんで『私はあなたの事なんか知りません』みたいな態度取ってるの? こっちに顔と目を合わせなさいよっ!?」
その前に、自分の小さな胸に手を当ててみた方が良いぞ?
「もうぅぅっ! 無視しないで! ともかく! こんなの買えないから! 単なるお菓子に10万? 10万も出すならブランド物のバックとか買うし!」
「フラウちゃん、買ってくれるんじゃなかったおーっ!?」
「…………う」
「か~たまがケチだったのは分かってたけど、フラウちゃんもか~たまと同じなんだお?」
「……ううぅぅ」
今にも本泣きしそうな顔になってせがむアリンの言葉に、フラウは思わず気圧される形で唸り声をあげていた。
そして、しれっとナチュラルに言ってたけど、か~たまはケチじゃないからねっ!?
しばらく後……。
「ぐ、く、うぅぅぅ……」
苦悩に苦悩を重ね、とうとう悩み過ぎて知恵熱でも出て来そうな勢いになっていたフラウが、やや根負けする形で……。
「し、仕方ないなぁ……きょ、今日は特別なんだから!」
超絶渋々ながらも頷いていた。
うむ、まさか10万マールのカステラを本気で買うとは思わなかった。
余談だが、元来であれば撃退で良かった所を、討伐まで持って行った関係もあり、クエストでの報酬はかなりの高額になっていたらしい。
結局の所……具体的な金額をフラウの口から耳にする事はなかったのだが。
「やったぁぁぁっ! やっぱりフラウちゃんは太っ腹! か~たまは超ケチ!」
これこれ、アリンちゃんや……フラウの太鼓持ちをするのは良いけど、然り気無くか~たまをディスるのはやめようね? か~たまマジで泣くよ!




