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百貨店、爆発する【3】

 私としては、そこまで物珍しい代物ではない。


 いや……厳密に言うと、今の私……リダ・ドーンテンとなってから以降では、初めて聞いた単語と言えるだろう。


 だからと言うのも変な話ではあるんだが、


「百貨店だと? そんな物が出来たのか?」


 私は意外そうな顔になってフラウに尋ねてみた。


 百貨店なんて単語をフラウの口から出されるとは思いもしなかったと言うのが、私なりの見解だったし……この台詞を口にすると言う事は、この世界にも百貨店が誕生したと言う事になる。


「そう! 出来たの! スゴいんだよ? 八階建ての大きなお店でさ? ブランド物から小物までなんでも揃ってるんだから!」


 そりゃ『百貨店』なんて言うぐらいだからな。

 こっちの世界の人間からすれば、まさに革命的な店舗かも知れないが、私の感覚からすればむしろ比較的日常にもあったレベルの代物だ。


 ……まぁ、かなり曖昧な記憶しか残ってないから、ある意味でこれがちゃんと記憶に残る話になるのかも知れないが。


「えっ!? 何それ! 凄くないっ!?」


 直後、話に割って入る様な形でルミが瞳をキラキラさせながら声を出して来た。


「そうですね? 一つの店舗にあらゆる業種の商品が揃っているのなら、わざわざ他の店に歩いて行く必要もなくなります。効率を考えると素晴らしいアイディアかも知れません」


 そこから、ルミの隣に立っていたルゥが強い関心を抱きながらも舌を巻く様な表情を作っていた。


 うーむぅ。


 言われて見ると、この世界にデパートが無かったのは不思議ではあるな?

 郊外も含めれば五百万人都市と言う、世界でも類を見ない巨大都市でもあるトウキの規模を考えるのなら、こう言った総合的な店が既に一つぐらいはあってもおかしくはなかった。


 けれどさ? こう言うのはやっぱりアイディア的な部分もあるよな?

 なんて言うか、コロンブスの卵的な所だ。

 答えを知れば簡単な事でも、答えを知らなければ難しい。

 つまり、何事も最初にやるのはすこぶる大変だと言う事だ。


 そう言った意味で言うのなら、百貨店を経営すると言うアイディアを思い付くまでに、長い時間を必要としたのかも知れない。


 そう考えるのなら、このデパート産業を産み出した人物は素晴らしい人間だな!


「本当、何で今まで考えられなかったんだろうね? まさにお店の革命だよ! こんな事を思い付く、株式会社ベルゼブブって商社はスゴいね!」


 人間じゃなかった!


 つか、またお前らかよっっっ!

 

 何となくだが、地味に嫌な予感がして仕方ない!


 ……いや、待て? 待つんだ?

 まだ、何かとんでもない事をした訳じゃない。

 

 そう……これから起こるのだ!


 いやいや、違う! 違うぞ私っ!

 そりゃ、確かに魔王にナールDXでは悲惨なとばっちりを受けたし、精霊魔王とか言う、ふざけた展開にもなったりはしたけど……あの商品以外で私に迷惑が発生した事はなかった筈だ。


 そもそも、魔王にナールDXにしても、よくよく聞いて見れば自信のない人間を奮闘させる事が目的で作られた商品で、売り上げが不調にさえならなければ、あの様な暴挙に出る事はなかった。


 つまり、売り上げが順調なら問題はないのだ! 順調であれば!

 逆に言うと、不調なら何を仕出かすか分からないと言う事にもなる……なるけど、そこは考えないで置こう!


「それでさ? 明日は休みじゃない? せっかくだしさ? みんなで世界初の百貨店に行ってみない?」


 フラウは意気揚々と私達へと誘い文句を口にして来る。

 

 いやぁ……なんてか、その百貨店が株式会社ベルゼブブ……つまり、バアルが代表取締役をしている店だと分かった瞬間に行く気力が激減したんだが?


 ……悪魔が作った百貨店とか、もうね……?


 もしかしたら、それは偏見であったかも知れないが……でも、嫌な予感しかしなかった。


 よって、私としてはこの誘いをキッパリと辞退したい。


 そう、辞退したい!……したいんだが、


「良いねぇ! 行こう行こう! リダも行くでしょう? 来ないだの実習みたいに行かないとか言っても実は娘を連れて二人だけで行くんでしょう? 今度は逃がさないからねぇっ!?」


 前回の実習で、私だけちゃっかり別クエストを受けて早々に実習を終わらせていた事を軽く根に持っていたルミは、含み笑いを見せて私に言う。


 ……ぐぅむ。

 ルミのヤツ……普段は色々と忘れっぽい大雑把な性質を標準装備している癖に、こう言うのは棺桶まで持って行くんじゃないかってレベルでずっと覚えているからな。


 ここでも『行かない』と抜かしたら、学園を卒業するまでネチネチ言われそうで怖い。

 いや、なんなら卒業してからも言われそうで、真面目に怖いぞっ!

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