百貨店、爆発する【2】
くそうぅ! 時代はやっぱり独身貴族の風が吹いていると言うのかっ!?
「その顔は……いえ、もう良いです。お願いだからリダさん……真面目に授業を受けて下さい。私を困らせて楽しいですか? もちろん、リダさんの成績と言いますか実力は存分に知っているので、素直にノートを書いていてくれれば、それ以上の事は望みませんから……はぁ」
先生は嘆息混じりになって大きく項垂れていた。
良く見ると、瞳から涙を滲ませていた。
どうやら、独身であった事を幾分かは気にしているらしい。
今の世の中、三十まで独身している女なんて山の様にいるし……むしろ、若い内に結婚して、元来あった独身貴族時代を謳歌する事が出来なかったと後悔している主婦だって結構いるのだから……まぁ、そこまで悲嘆する事はないと思うんだが。
「リダさん……フォローしているつもりの顔をしてますが、それは薮蛇です。先生を泣かして楽しいですか? 嬉しいですか? 私だって……私だって、せめてリダさんの様に可愛い子供が欲しいんですよ? 娘なら可愛い服とか一緒に着て楽しみたいですし、息子なら立派なマザコンに仕立て上げる算段を、寝ずに夜通し妄想している時だって一日や二日ではないのです! せめて子供! 子供が欲しいのぉっ!」
先生は絶叫してから教壇の上で四つん這いになり、泣きながら己の希望を主張していた。
先生こそ、ちゃんと授業をした方が良いと思うんだが……?
「か~たま! せんせーを泣かしたらメッ! なんだお~! 先生は、アリンみたいな可愛い娘が欲しいって、いつも言ってるんだお~? 時々、目が怖いから誘拐さりゅと思って怖いんだお~! これ以上、先生を追い詰めたら、アリンが先生にりゃち(拉致)られてしまうおー」
アリンは比較的真剣な顔になって私へと答えて来た。
いやいや、アリンちゃんよ? 流石の先生もそこまでは病んでない。
「うふふふ……それも良いわねぇ? 今日から私の娘にならなぁ~い?」
ヤバイ! そこまでだったかっ!?
急に危険を察知した私は、即座にアリンを抱きかかえてみせた。
「幾ら先生でも、それをやったら犯罪ですよ! てか、これは私の娘です。DNA的にも私の半身ですよ? アリンを奪っても私の娘である事になんら変わりはないんですからねっ!?」
「そ、そうね……ごめんなさいリダさん……私がどうかしてたわ……」
うん、そうな?
ここに関しては、私も先生に対してフォローする事が出来ないや。
「つまり、こうよね? 戸籍的に今のアリンちゃんはアリン・ドーンテンになっているから、これを私の籍に入れ換えれば全てが全てオールオーケーって事になるのよねっ!?」
フォローする気にもなれないぞっ!
この先生は、基本的に穏やかで理解力のある先生ではあるんだが……ぐぅむ、よもやこんな地雷ワードを持っていたとは……。
「それじゃあ、早速、戸籍の改竄をして来るから、楽しみに待ってて下さいね? アリンちゃん?」
いや、それ犯罪ですからっっっ!?
冗談で言っているとも取れる内容だが、目がマジだった!
この先生には、今後は思いきり注意しないと行けないなっっ!
キーンコーンカーンコーン♪
私が最大限の脅威を先生に抱いていた頃、室内に授業終了のチャイムが鳴る。
「あら、時間? ふぅ……仕方ないわね? 残りは明日の授業でやります。はい、それでは授業を終わりますねー?」
チャイムが鳴った所で、先生は元の優しい教師へと戻っていた。
どうやら、チャイムが現実世界へと戻るスイッチの様な役割を持っているらしい。
良く分からないが助かった。
でも、戸籍を改竄されたら困るから、後でバアル辺りに相談して置こうか!
「では、また次の時間で。今回少し半端になってしまったから、なるべく予習して貰えると助かります。それとリダさんはアリンちゃんの服と荷物を早急にまとめて置いて下さい」
いや、最後のはおかしいだろっっ!
みんなに予習をさせるレベルで私にとんでもない事をのたまったぞ、この先生!
こうして、私に思わぬ脅威が転がって来たのだった。
ほ、本気でバアルに相談して置こう……。
○●◎●○
「ねぇねぇ? リダ? 明日は暇? 良かったら百貨店に行ってみない?」
授業が終わり、休憩時間になった所で私はフラウから思わぬお誘いを受けた。
百貨店。
密かに、この単語は久しぶりに聞いた。
朧気ながら微かに残っている前世での記憶では、大体どこの都市部にもある大きな小売店と言うイメージだ。
恐らく、フラウが言っている百貨店も、かつての私が知っている、あのデパートを意味しているのだろう。




