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百貨店、爆発する【1】

 心地よい春風が吹いた季節も、いつの間にか終わりを告げていた。


 私の好きな季節でもあっただけに、春の終わりは少し口惜しい部分がある。

 可能であるのなら、もう少しの間、麗らかな春の陽気をやんわりと感じ続けていたいなぁ……なんて思うのだが、季節と借金取りは待ってくれないのが世の常だ。


 私の意思とは無関係に時は流れ、万物が流転し、気候は変動して行く。

 気付けば、空には大きな入道雲がもくもくと出現する季節になって来た。

 完全なる夏の到来である。


 夏が好きな方には申し訳ないが、私は夏が苦手だ!


 だって、暑いし! てか、暑いし! もう溶けるんじゃね? って、心の底から魂の叫びを放ちたくなる位に暑いしっ!


 夏がどうと言うよりも、暑いのがダメなのかも知れない。

 ともかく、春よ……お前はそんなに急いで何処に行くんだ?


「……暑い」


 学園の授業を受けつつ、私は朧気おぼろげな目をして呟く。


 この世界には、残念ながら確立した冷房システムが存在しない。

 一応、ある事はあるのだが……まぁ、コストが段違いに高い!

 何処ぞの世界の様にエアコンが大量生産されている様な文化レベルであったとするのなら、ここまで困る事はなかったのかも知れないが……もう、な? 私はこのままアイスの様に蒸発して消えてしまうんじゃないか? って言いたくなる様な環境下で授業を受けなければならない訳だよ。


 もう、溶けて死にそうだから、耐熱魔法でも発動させてやろうか?

 うん、そうするか! 耐熱魔法を発動させれば、この罰ゲームにも匹敵する地獄の様な教室も、心地よい快適空間に早変わりだ!


 これで気分良く快眠する事が出来るな!


 我ながら、中々の妙案を思い付いた所で、早速魔法を発動。


 耐熱魔法アンチ・ヒート


 発動と同時に、これまであったうだる様な暑さがスゥゥ……っと引いて行き、清涼感に近い何かを感じるまでになって行く。

 ……うむっ! 快適、快適!


 これで気分良く寝る事が出来るなっっ!


 ……いや、待て?

 思えば、私の席はアリンとセットにされた事が原因で教壇の最前列に変わってしまったではないか!

 くそうぅぅ……なんて事だ! よりによって誰もが嫌う、最も嬉しくない特等席に、私は座っていたんだよ……。


 残念ながらこれでは寝る事は出来ない。

 しかし、暑さが紛れてしまった以上、この教室は私にとって子守唄を合唱されているまでに心地よい快眠空間と化している! こんな状態で眠るなと言う方が間違っているのだ!


 授業受けているのなら、真面目に勉強すれば良いだろう? と言うツッコミを受けそうな気がするけど、そこは野暮な話でもあるぞ? 何せ、私からすれば解り切った授業過ぎるんだ。


 例えば、今は応用魔導の授業をしているんだが……ハッキリ言って足し算の授業と大差ない。


 こんなのを聞いて、今の私に何を求めているんだ? と、学園側に問い正したくなるね!


 ただ、最近は歴史と古語が少しだけ興味深い授業をして来たから、その時間だけは起きていられたりもする。


 歴史の場合は、存外自分でも忘れていたりする部分があったり、過去のノスタルジックな世界を思い浮かべる事が出来る分だけ、まだ起きていられるんだよ。

 古語の場合は……まぁ、私も割りと知らない。

 半分ぐらいは知らない部分もあったりするから、この機会にしっかり覚えてしまおうと言う部分もあって、素直に起きていられる事が多い。


 つまり、私としては授業内容が悪い!

 もっと、私にとって勉強になる! と、心から思える内容であるのなら、私だってしっかりと意識を覚醒した状態でキチンと勉学に励む事が可能なのだ!

 しかしながら、今の授業はその限りではないので……寝て良いよね?


「リダさん? 今から寝ようとしてませんでした? いいえ、寝ようとしてましたよね? 私の授業が退屈なのは認めますが、せめてちゃんと聞いて下さいね?」


 果たして、教壇で授業を担当していた気の良い魔導の先生が、ピシャリと私に言って来た。

 どうやら、私の行動の一挙一動をつぶさに観察している模様だ。

 くそ……完全にマークされているじゃないか……つか、私だけ異様に見てないか? 他にも生徒が一杯いると言うのに!


「その顔は『他にも生徒はいるのに、どうして私だけマークされてるんだろう?』って顔ですね? それは流石に当然の流れとしか、私には言えませんね? リダさん……あなたは少し眠り過ぎです。私としても注意せざる得ない程に寝ています。何なら、居眠りしてない時の方が少ない……いいえ、違います、毎回寝てます。これでも教師なので注意しない訳にも行かないのですよ? 職務放棄に当たりますしね?」


 そこから先生は、瞳をキラーンッ☆ っと光らせてから私に言って来た。


 ……って、待て?

 先生はあれか? 独身術でも使えるのか?

 それとも、私の顔に文字でも浮かんでいると言うのか? 


「その顔は『先生は独身術の使い手か?』とおののいている模様ですね? 確かに私は寂しい独身です。しかし、リダさん? ひとこと言いたいのですが、それを言うのなら『読心術』です。私を皮肉る為に敢えて間違った変換をしているのかも知れませんが、大きく違いますよ? それと、私はいき遅れではありません。単に良い出会いがなかっただけですから!」


 うぉぅ!

 まさか、そこまで見抜くとはっっ!

 こ、これは完全に先生は独身術の使い手だった模様だ。

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