リダ会長、冒険者見習いになる【27】
「どうしたのシャムジ? もしかして、アンタの武勇伝でも聞かせる気だったの? ふふ……オークを一匹倒した程度で大風呂敷を敷こうだなんて……アンタもまだまだ小物ねぇ?」
そこから、受付のお姉さんは少し小バカにする感じでシャムジ先生へと答えて行く。
「違うわっ! いくら俺でも、そこまで調子の良い事が言えるかよっ!? 俺が言いたかった事はなぁ!……あ、ごめんリダさん。言わないから? うん、大丈夫だからその顔はやめて欲しい……です、はい」
やや触発された感じだったシャムジ先生は、勢いそのままに私の事をバラそうとしていた所で、私に睨まれて静かになる。
そんなやり取りを見て、受付のお姉さんは頭の上にハテナを浮かべていた。
……今のは少し違和感のある態度だったな……失敗したか?
「あははっ! 相変わらず気が小さい男ねぇ? そんなだから、口だけのシャムジなんてアダ名が付くんだ。明日からは、上位ランクの冒険者とパーティーを組んで、その小心者さ加減を直して来ると良いわ? あははっ!」
……うん、受付のお姉さんが鈍感な人で助かった。
でも、普通に考えると受付のお姉さんが見せる態度の方が一般的なのかも知れない。
むしろ、実は会長が研修生をして初心者のクエストをやってました……とか、さっきのやり取りだけで簡単に気付く事が出来る人間の方が少ないだろう。
私も、ちょっとだけ身構え過ぎたのかも知れない。
何はともあれ。
「はい、クエストは無事完了したのを確認したよ? 今日は、研修生達のクエスト管理が無駄に一杯あるから使われたわー? ちょっと仕事が雑になってて悪いけど、ちゃんと報酬はキッチリ渡すから安心してね?」
割りと適当感がある口調で、面倒臭そうな表情を作って言うお姉さんは、間もなく私へとオーク報酬の支払いをしてみせる。
組合のクエストは、大抵その場で報酬が支払われる。
職業によって多少の差異はある物の、大抵はどの組合でも同じ流れと言えるな?
そこで、今回のクエスト報酬を貰う事になるんだが、
「……えっと、リダさん? あんた、何をしたの? オーク一頭の討伐クエストの筈なのに、特別報酬がアホみたいに出ているんだけど……?」
報酬を取りに入った受付のお姉さんが、顔で『謎』の文字をアリアリと作りながら私へと尋ねて来る。
ああ……そうなるのか。
おそらく、メインのクエストで得られる報酬よりも、サブのクエストと言うか……ついでにやった事で生まれた報酬の方が額が大きくなっているのかも?
それと言うのも、だ?
「豚肉が住んでる所まで空飛んで行ったお~? そして、空からか~たまの超炎熱爆破魔法で木っ端微塵になったお~!」
……とか言う、アリンの言葉が全てを語っている……語っているんだけど、私の魔法は意地悪でやった訳じゃないからね? そこは間違えたら行けないルビだから!
「…………えぇと?」
ただ、超炎熱爆破魔法を額面通り『フレインダムド』と言わなかった事で、受付のお姉さんは今一つ状況を把握する事が出来なかったらしい。
当然だ……少なからず、ただの研修生がぶっぱなす魔法ではないからな。
アリンが意図して言った事ではなかったかも知れないが、結果的にお茶を濁す形になった。
「良くわからないけど、偶然かな? あははっ! 良くあるわよねぇ? ビギナーズ・ラックってヤツ? 本当、運って大切だと思うわ?」
そして、適当に自分の好きな様に解釈し始めたお姉さん。
中々に大概と言うか……何処をどう考えるとビギナーズ・ラックに落ち着くのか? 少し聞きたくなる様な話ではあったが、私としてはそっちの方が何かと都合が良い。
「そうですね? 流石は受付の方です。色々なクエストを知っているんですね」
「もちろんよ? こう見えても私、この道三ヶ月のベテランなんだから!」
それはベテランとは言わないしっ!?
つか、もしそうであれば、シャムジ先生の後輩だろっ!
それなのに、そんな態度を取っるのかよっ!?
正直、ここに関しては少し物を申してやりたい気持ちにもなったが……やめた。
そこから、シャムジ先生と受付のお姉さんが色々と会話をしていたのだが、存外しっくり来ると言うか……まぁ、上手い具合に人間関係が出来上がっている感じだった。
私の見る限りだと、お調子者の冒険者とふてぶてしい受付嬢……と言う感じだろうか?
一見すると上手に付き合える関係が構築されるとは思えない二人だが、存外そんな事もなく、実にフランクな感じでナチュラルに自分の素を出した会話をしている。
きっと、この状態がシャムジ先生にとっても、受付のお姉さんにとってもベストな状態なんだろう。
それなら、私は余計な事をするべきではないな?




