リダ会長、冒険者見習いになる【23】
ここから見ても分かる通り、実は魔王と一言で述べても色々な魔王が存在しているのだ。
まぁ……でも、これだと色々と紛らわしいと言うか……色々な物がごっちゃになって分かりにくいだろうから、今回は住み分けとして魔界王を魔王とし、悪魔王はそのまま悪魔王と呼称して行こうと思う。
ただ、悪魔王も世間的に言うのなら魔王の仲間であり、この魔王達を束ねている存在……簡素に言うのなら、バアルの様な存在の事を一般的には『大魔王』と呼んでいたりもする。
……けど、まぁ……面倒だし……分かりにくいし……今更バアルが大魔王とか言われても、なんか全くそんな気がしないので、この物語に関しては魔界王だけを魔王と言う立ち位置にして置こうか。
そっちの方が何かとシンプルで分かりやすいだろうし。
閑話休題。
何やら説明染みた内容が先行してしまった所で、本題に入ろうか。
私は、手揉み状態のミィコ課長に連れられて、研究所の一室へと案内されて行く。
もはや、当初の目的であったオーク討伐はどうなってしまったんだ?……とか、言われそうな展開だった。
「美味しいおぉぉっ! このお菓子、美味しいおぉぉぉぉっっ!」
……とは、アリンの言葉だ。
何処か事務的な室内に案内された私達は、間もなくお茶と茶菓子を用意されたんだが、茶菓子を見た瞬間にアリンの瞳が激しく輝いた。
もはや、テンションはうなぎ登りに急上昇! テーブルの上に出されて間もなく、がふがふ! っとがっつく様にお茶菓子を食べ始めた。
本当に……どうして、この子はこんなにも食欲に忠実だと言うのだろうか?
「すまないな……私の娘は、いつもこうなんだ」
「いえいえ、お気になさらず……リダ会長そっくりの利発そうなお嬢様ではありませんか。それに、子供の内は少しわんぱく程度で丁度良いとあたしは思いますよ?」
やや申し訳ない顔になって言う私に、ミィコ課長はやんわりと微笑んで柔軟な態度を取ってみせる。
これが素で言っている態度と台詞であったのなら、私としても素直に優しい人だなぁ……と感じる事が出来るんだが、私の素性を知った瞬間に手のひらをクルンッッ! と、分度器で測ったかの様にピッタリ百八十度変えて来た相手なので、額面通りの態度であるとは、どうしても思えなかった。
まぁ……おべっかである事は分かっているけど、そこはツッコまない様にして置こうか。
しかし、それにしても。
「中は、案外普通なんだな……」
周囲を軽く見回しながらも、私は少しばかり意外そうな顔になって言う。
入り口の部分を見る限り、そこはどこをどう見ても、単なる洞穴だった。
それこそ、ゴブリンとかオーク辺りが巣を作っていてもなんらおかしくない様な……そんな風な場所だったのだ。
そう言った場所に、ごくごくありふれたオフィスが中に建てられていたりするのだから……まぁ、なんて言うか……紛らわしい事をしてくれる物だと嘆息気味の感想を抱きたくなってしまう。
「そりゃそうですよ? 入り口こそ部長の趣味と言うか、好みで洞穴風にしておりますが、他はちゃんと会社の機材を置くのに最適な建物になっているんですから」
ああ……あれは、上司の趣味だったのかよ。
一体、どんな趣味をしているんだか。
密かに、リッチーの部長の趣味が悪いと言う、私の生活において何の役にも立たない新発見があった所で、ミィコ課長は愛想の良い笑みを作りながら私へと口を開いた。
「部長に連絡した所、間もなくこちらの方にやって来るそうです。リダ会長にごまを擦って、首尾良くエウリノート様に誉められたい気持ちで来る模様なので、少しは誉めて頂けると幸いです」
歯に衣を着せぬ、なんとも清々しい開き直った台詞を臆面もなく語るミィコ課長がいた。
きっとその通りなんだろうが……まぁ、もう少し建前と言う物を持った方が良いと思うんだが?
「そ、そうか……ま、まぁ……誉められる要素が一つでもあるのなら、私も素直に誉めようかと思う」
「本当ですか! ありがとうございます! これで、我らの魔王にして影の薄いエウリノート様も喜ぶと思います!」
いや、だから少しは言葉を選べよ……。
「では、部長が来るまでの間、少しばかり時間が開くと思うので、その暇潰しがてら、この研究所で商品開発されている試作品を軽く何点かご紹介させて頂きますね?」
「……ほう? それは少しだけ気になるな?」
ミィコ課長の言葉に、私は言葉通りに興味を持った。
何せ、ベルゼブブの商品と言えば……こないだ『魔王にナールDX』とか言う、アホみたいな商品を売っていた、傍迷惑な会社だからな?
そして、これからもくだらない上に傍迷惑な商品を作り出そうとしている部署なんだろうしな!
私としては、この時点で世の中に迷惑を発信する前に阻止出来るチャンスだと思っている程だ。




