リダ会長、冒険者見習いになる【19】
「あるぅえぇっ!」
……とは、シャムジ先生の言葉だ。
もはや、このリアクションだけで生計を立てている一発屋芸人みたいに同じ驚き方を何回もやっていた。
しかし、シャムジ先生の気持ちが分からない訳でもない。
現状のアリンがやっている事は、ちょっとしたドッキリみたいな物だ。
見た目は単なる三歳児以外の何者でもない……そもそも、研修生だったとしてもどうしてこんな所に居るんだ? 色々とおかしくないか? って言いたくなる様な感じの子供が、スケルトンの集団をアッサリと一人で粉砕していたのだから、驚くなと言う方が色々と間違っていた。
きっと、事情を全く知らなかったのなら、私だって驚いているだろう。
違いがあるとするのなら『あるぅえぇっ!』なんて感じの驚き方をするかしないかだ。
「あるぅえぇっ!」
ワンテンポ遅れて、アリンがシャムジ先生の真似をして来た。
どうやら、大層気に入ったみたいだな?
ふふ……こうなると大変だぞ? オリジナル本人がげんなりする位、毎回やって来るからな? 私も毎朝やられて凄く辟易した朝を毎日送っているからな……ん? あれ? なんか目から涙が出て来たぞ? おかしいな? 涙が止まらないのだが?
私の中で妙に悲壮の感情が爆発していた頃、
ボコボコボコォォッッッ!
再び地面から雨後の筍みたいな勢いで、再びアンデッド達が生えて来た。
えぇぇ……。
何なのコイツら?
もしかして、ここの地面はアンデッドが良く育つ環境だったりするの?
そう思ったのには理由がある。
さっきは、単なるスケルトンが地面から突発的に生えて来たのだが、今度は更に上位のアンデッドでもある、ボーンソルジャーが地面から生えて来たからだ。
スケルトンは、個体差こそあれ強さ的にはそこまで強いと言う訳ではない。
希にアホみたいな強さを誇る、謎のスケルトンがいたりもするが……それは人間の格好をしたままアンデッド化したドラゴンとか、そこらだったりする為……まぁ、つまりは人間の格好をしたドラゴン・ゾンビとかだったりもする。
ともかく、そう言った例外さえ除けば、然したる脅威と言う程でもない。
しかし、眼前の私達にやって来たボーン・ソルジャーは完全に桁違いの脅威を持っていると見て良いだろう。
戦争時代の戦士達をゾンビ化したボーンソルジャーは、基本的に武器と防具を最初から身に付けており、ただでさえ通常のスケルトンよりも強いと言うのに、更に凶悪化している。
簡素に言うのなら、スケルトンが一般人だったとするのであれば、ボーンソルジャーは完全なる戦士と言う事だ。
個体差による強さの違いがあるけど、概ねBランク相当の冒険者程度の強さが、単体で存在していると見て良いだろう。
見る限り、地面から這い上がって来たボーンソルジャーの数は十体あまり……。
「な、何が起きてるんだぁ……?」
シャムジ先生は、顔面を蒼白にして震え声を上げていた。
あ……良く見ると、足がガクガクと震えている。
そして、アリンが面白がって、やっぱり足をガクガクやっていた。
しかし、そこから以降の行動は、互いに大きな異なりを見せていた。
一斉に襲い掛かるボーンソルジャーの攻撃をヒョイヒョイとかわしては、次々とカウンターで沈めて行くアリンに、
「おわっ! っと、ぐおわぁっ!」
攻撃をかわす事で精一杯のシャムジ先生……あ、一発くらった。
「……戦闘に関して言うと、まだまだ修行が足りないな」
幾ら上位アンデッドとは言え、恐怖で身体がすくんでいる様では、私的にはまだまだと言える。
なんにせよ、助けてやらなければな……。
思った私はシャムジ先生の前にいるボーンソルジャーを、
「面倒だ、消えろ」
軽く口を動かしてから、
ボンッッッ!
爆破してやる。
私としては、超炎熱爆破魔法で一掃してやりたい所だが……ここは洞穴の中だ。
こんな所であんな魔法をぶっぱなしたら、一瞬で洞穴が瓦解してしまうだろう。
そうなったら私達は生き埋めとなってしまう。
私やアリンだけなら、それでもなんとか脱出する事が出来るかも知れないが、シャムジ先生も脱出する事が出来るのかと言うのなら……まぁ、生き埋めのまま死ぬよな?……って答えが私の頭の中にチーンッ! って、出来上がっていた。
しかたないので、初級魔法でもある爆破魔法で対抗してみせる。
超炎熱爆破魔法から比較すれば、小さな花火程度にも満たない細やかな火力ではあるが、ボーンソルジャー一匹を沈める分には十二分の威力があった。
爆破を喰らったボーンソルジャーは、次の瞬間には粉微塵状態になって消え去って行く。




