リダ会長、冒険者見習いになる【17】
「なんだい? アリンちゃんも驚いたのかい?」
「お? 違うおー? シャムジ先生の真似を全部してるだけだおー?」
……ああ、やっぱり。
自分の娘がやっていた事だけに、私はちゃんと予測もしていたし確信もしていたんだけどな?
「……そこの部分は真似しなくて良いよ、アリンちゃん? なんて言うか、驚く所まで真似されたら少し恥ずかしいじゃないか?」
「お? アリンは恥ずかしくないお? むしろ、楽しいお!」
気恥ずかしい顔になって言うシャムジ先生に、アリンは持ち前の三歳児クオリティを遺憾無く発揮していた。
……いや、遺憾無くと言う表現はどうかと思うけど、アリン的には遺憾なんてないだろうから、これで間違ってはいない筈。
「そ、そうか……アリンちゃんが楽しいなら良いとしようか?……はは、でも? 他の人達にやったらダメだからね? それは失礼な事だ? そこはしっかり守る事? 良いね?」
「お? 失礼だったお?……それは知らなかったお~。ごめんなしゃい」
苦笑混じりに優しく注意したシャムジ先生の言葉に、アリンはしゅん……としょげる形で謝ってみせた。
……おお、なんだか知らないが、ちゃんと失礼に値すると言う行為を学習しているぞ!
「シャムジ先生! しゅつもんです! か~たまは起きるのが苦手なので、いつも……」
そこまで言ったアリンは、いきなり四つん這いになり……なんかアンデッドの真似事みたいな事をし始める。
…………。
いや、これ……まさか、ねぇ?
「……こんな感じで起きて来りゅ、か~たまの姿が面白いから真似してたお~。これも失礼なんだお?」
やっぱりかぁぁぁぁっっ!
なんで、この場面でこんな質問するの? アリンちゃんわっっ!
もう恥ずかしいから、サッサとクエストやろう! いや、マジで終わらせて帰ろう!?
「なるほど……言いたい事は分かったよ? うん、それはやめた方が良いね? か~たまはきっと心の中では泣いてると思うからね?」
「お……やっぱり、そうだったんだお~。ごめんなしゃい、か~たま」
アリンは、これ以上ないまでにしゅんとなり、瞳に涙を溜めて私に謝って来ていた。
……まったく、この子は。
「謝る事はないぞ~? か~たまはちっとも迷惑だなんて思ってないからな~?」
瞳に涙を溜めて謝って来たアリンに、私は頭を撫でながら声を返した。
途端に、アリンの顔がぱぁぁぁっっ! っと、お日様の様な笑顔に変わる。
「やっぱりそ~だおね! か~たまには失礼じゃないおね! 明日もやって良いおね!」
……いや、それは勘弁して!
「アリンちゃん? 確かにな? か~たま……ん? か~たま? えぇと、母親って事はないから、ニックネームかな? ともかくリダさんは優しそうだし、面倒見が良さそうだからそう言うかも知れない? それに失礼にも値しないとは思う? だけどね、アリンちゃん? それでもリダさんは悲しむと思うんだ。アリンちゃんだって嫌な事されたら気分が悪いだろう? 悲しいだろ?」
「お? お~。悲しいお! おやつは300マールまでと言われた時は、すごく悲しかったお!」
アリンにとっての嫌な出来事は、どうやらクエスト出発時に準備するオヤツの量で明暗が分かれてしまう模様だ。
うん、やっぱり三歳児クォリティーだ。
「そうだろう? それと同じさ? 自分だって嫌な事されたら嫌だ。それならリダさんだって嫌な事されたら嫌だって思う筈だろう?……考えてごらん? 嫌な事をされた時の自分を? それと同じ気持ちを、リダさんにもさせたいかい?」
「させたくないお……」
「なら、話は簡単さ? やらなければ良いのさ?」
「おおおおおっ! シャムジ先生、天才!」
アリンは瞳を輝かせてシャムジ先生を称えた。
傍目からすれば、一般常識レベルの話だし……何を当たり前な事で、そこまで感動しているんだ? と、思えてしまうかも知れない。
しかし、アリンは見ての通り、まだまだ人間としてのスタートラインを切ったばかりなのだ。
基本的な常識は、これから色々と覚えて行く……その最中なのだ。
そして、シャムジ先生は素晴らしいな!
冒険者として組合にいるのではなく、是非ウチの学園で教鞭を取っては貰えないだろうか?
ふと、こんな事を考えてしまう私がいた。
顔も悪くないから、きっと女生徒にもモテるだろう。
そして、男子生徒から無駄に敵対視されそうな気もするが……そこはそれ、持ち前の明るさと気さくな部分でカバーする事が出来る様な気がする。
そして、思った。
いい加減、クエストしないとっっっ!?
何やってるんだ、私はっ! この調子だと、まぁ~たオマケ短編がオマケ中編になってしまうではないかっっ!
……閑話休題。
なんとも脱線が続き、ちっともクエストが進まなかった時、
ボコォ……ボコボコォッッ!
地面がいきなり盛り上がる。
……なんで地面が?
……って、え? ちょっと待て!




