リダ会長、冒険者見習いになる【15】
……とは言え、今の私達は立場的にこれが始めてのクエストとなる冒険者見習いだ。
下手に緊張感を煽って、無駄に緊張させる事はむしろマイナスになってしまう可能性だってある。
クエストは、一つ間違えれば死が待っている。
緊張し過ぎて、元来の力が発揮できずに死亡……なんて事だって、決して無いわけではなかった。
当たり前の当然の話になってしまうのだが、これから冒険者になろうとしている新人を、単なる練習に過ぎない研修のクエストで死亡させる訳には行かない。
だから、こうしてベテラン冒険者が先生を兼任する形で引率している訳となる。
「まぁ、相手はそこまで強い相手じゃないよ? 世間一般では、オークもかなり脅威を持つモンスター……って感覚かも知れないけど、それなりにレベルの高い冒険者ならむしろお得意様さ? 最悪の場合は、俺がオークを倒しに行くから、リラックスして戦ってくれたら嬉しいかな?」
シャムジ先生はゆるやかな笑みのまま私達へと言って来る。
うむ、中々に頼もしい台詞だな。
口だけではなく、態度と言うか……答えている雰囲気にも余裕の様な物がある。
ここで、無駄に緊張感を煽り、言った当人もビクビクしていたりすれば、研修としてやって来た見習い冒険者達も不安で一杯になるだろう。
そこを加味するのであれば、これだけの余裕を見せているシャムジ先生の対応は、決して間違いではないな?
ただ、少しお調子者に見えてしまう部分もあるが。
けれど、私としては好感が持てる、爽やかな好青年って感じではあったな?
本当にフラウが居なくて良かったよ……アイツがいたら、我が校の恥を余す事なく披露する事になった筈だしなぁ……。
「はいですお、シャムジ先生! 頑張って豚肉を捌くですお! シャムジ先生!」
シャムジ先生の言葉に、アリンがいつになく真剣な顔をして頷いていた。
当人は至って真面目に言っているのだろうが、純粋にオークと豚肉をイコール線で結んでいる辺り……もはや、ただのコントをやっている様にしか見えない。
「豚肉? ああ、オークだからか? ははっ! そいつは良いや。その位の意気で行ってくれよ?……ただ、おチビちゃんには少しばかり怖い相手かも知れないから、無理はしない様にな?」
真剣に不真面目な事をほざいていたアリンに、シャムジ先生はにこやかな笑みで頭を撫でていた。
……ふむ。
ジョークが分かるだけではなく、しっかりと面倒見の良い態度まで見せるんだな?
ここの組合、中々に良い人材が居るではないか。
不意に、私の中にあった会長しての思考が出て来てしまったが、それでも素直に素晴らしいと感心していたりする。
まぁ、言われた当人は、あまり面白くはなかった模様だが。
「アリンはおチビじゃないおっ! 今はまだ子供だからちっちゃいだけだおっ! これから一杯ごはん食べておっきくなるんだおーっ!」
「そうかそうか~。そいつは悪い事を言っちまったなー? そうだな? 見た所、将来は可愛いレディーになりそうな顔をしているぞ? 惜しいなぁ……後二十年遅かったら、シャムジさんが放っておかなかったかも知れないぜ?」
「そうなんだお! アリンは、大きくて可愛い女の子になるんだお! 色々と大きくなってるんだお! か~たまに似て、美人になると思うんだお! でも、胸だけは似て欲しくないんだおぉぉぉっっ!」
最後だけ無駄に感情込めて言うんじゃないよっっ!
それとなくヨイショするシャムジに、アリンは胸を張って堂々と美人になる宣言をしていたが……最後だけ、妙に切実な声とかを出していたりもする。
三歳にして、早くも己のバストに危機感を持つ辺り……い、いや! だから、か~たまに似てとか言うんじゃないよ! こう見えて、私もまだまだ成長期なんだからなっっ!?
「胸か……? ふぅむ、アリンちゃん。君はまだ若い……てか、幼い。だから色々と分かってない事があるな? 女ってのは胸じゃないぞ? ハートだ!」
「お? ハート? 心臓だお? けど、結局は胸だお?」
「ふふ……そうか? そうなるか? まぁ、世の女ってのは、どうしても見た目を気にする傾向にあるからな? だから、その答えも分からなくないぞ? しかし、そうじゃない! 女は中身だ! 見た目より性格だ! 多少ブスだろうと、性格が良いのなら男は惚れる! ここは要チェックだ! メモしておくと良いぞ!」
私の娘に何を教えているんだ……この教官は。
まぁ、私もメモして置くけど。
「お? 性格良ければOKなんだお? そんなの男の考えていりゅ建前……って、フラウちゃんが言ってたお? こっちもやっぱりメモを取って置きなさいって、言ってたお~?」
そして、フラウのヤツはなんて事を三歳児に教えてるんだよっっ!?
私は、あの耳年魔に少しお灸と言う名の爆破リストに付け加える事を心に決めた。




