リダ会長、冒険者見習いになる【14】
ちなみに、このクエストを受けたのは私とアリンの二人だけ……なんだとか。
シャムジ先生から聞いた話ではあるんだが、オーク一匹の討伐と言うクエストは中途半端に高い難易度らしい。
研修生達からすれば、オークを倒せるだけの能力がある者は少なく……かつ、装備的にも危険だった。
この話を聞いた時に、私は少し納得してしまった。
言われて見ると、研修に来ていたウチの学生達は、これからハイキングにでも行くんじゃないかと言わんばかりの軽装だった。
そもそも、実力的に拮抗してるだろうオークを相手に、あんな軽装で挑んだのなら……例え一匹の討伐であり、かつパーティーを編成して挑むとしても危険が付きまとうだろう。
組合だって許可するとは思えない。
他方、特別組の視点からすると、難易度が低過ぎる。
余談だが、フラウ達を始めとする特別組は、近所にあったダンジョンから突発的に外から出て来てしまったワイバーンを撃退する事らしい。
偶然かも知れないが、ちょうどタイミング良く発生した事件らしい。
まぁ、私的に言うのであれば事件と表現するよりも事故と形容した方が、よりしっくり来るんじゃないかと思う。
トウキの街から少し離れた場所にある塔に生息するワイバーンが、なんらかの理由から街に降りて来た。
どうしてその様な結果になってしまったのか?……その詳細は不明なのだが、少し前にその塔を踏破した者がいるらしいので、そこらに原因があるかも知れない。
どちらにせよ、ワイバーンが街の近郊に出現したのはかなりの脅威だ。
そこで、ワイバーンに元の塔へと戻って貰う為に冒険者組合が撃退作戦を始めたと言う事になる。
クエスト内容はワイバーンの撃退または討伐。
元来であるのなら、Aランク相当の冒険者がパーティーを編成して行う高難度クエストだ。
但し、今回のワイバーンは個体の能力がそこまで高く無い事が事前情報である程度まで分かっていたので、丁度良いだろうと組合側が判断したのか? 特別組の依頼としてフラウ達が引き受ける事になったんだとか。
……う~ん。
……ワイバーンか。
ワイバーンと一言で述べてもピンキリで、個体差によってはそこまで強くない下位のワイバーンも入れば、熟練の冒険者でさえ一瞬で殺されてしまうまでに、凶悪な強さを持つ上位のワイバーンも存在する。
特に超レベルのワイバーンなどは最悪の強さを持っていて、外見的には全く同じだと言うのに、個体としての能力は下位ワイバーンの百倍強の強さを持っているのだから笑えない。
逆に、下位のワイバーンは、まだ人間の相手がギリギリ相手可能なレベルである事が多く、弱いワイバーンであるのならBランク程度の冒険者であってもパーティーを組めば倒す事だって可能だ。
恐らく今のフラウであるのなら『あははははっっ! この上位魔導師たる私に、お前ごとき羽の生えたトカゲが勝てると思ってんの? 格が違うんだよ! 格がぁっ!』とかって、無い胸張って大威張りしていそうだ。
詳しい魔力を聞いた訳ではないが、アリンが軽く見たステータスでは、フラウの魔力は一万チョイらしいから、下位レベルのワイバーンならフラウ単体で圧倒してしまうのは予想に難くない。
けれど、魔力一万チョイって言うのは、上位魔導師の中では新米レベルの魔力だからな? ランク的にはSマイナス程度の能力値だから、極めて高い事に変わりはないけど、そこまで高飛車になれるレベルとは思えないんだが?
なんにせよ、フラウ達の心配はいらないだろう。
フラウだけで楽勝なのに、ルミやルゥの二人までいるのだから、これでクエスト失敗したのなら『どんだけ間抜けな事をしたんだ?』と、腹を抱えて笑ってやっても構わない内容だと私は見ている。
まぁ、頑張ってくれ……とだけ、心の中でエールを送る事にして置こうか。
それに、苦しいクエストではないとは言え、私達も別のクエストを受注している。
今は他のパーティーの事を考えるのではなく、自分が受注した仕事をしっかりこなす事を念頭に置いた方が無難そうだ。
思った私は、今のクエストに集中する。
引率も兼ねているシャムジ先生に先導される形で、私とアリンの二人は鬱蒼と生い茂る木々の合間にある洞穴付近へとやって来た。
「よし、到着。リダさん、アリンちゃん? 見えるかな? あの岩壁にある大きな洞穴が」
シャムジ先生は、比較的穏和な雰囲気を作って私達へと声を吐き出した。
比較的……と表現したのは他でもない。
格下のモンスターとは言え、これから生死を懸けた戦いが展開するのだ。
心の底からヘラヘラしている場合ではなかった。




