助け合える明日へ【26】
魔導大国ニイガが、軍事魔導大国ニイガにならなければ良いのだが。
……そんな、少しだけ突飛でもない不安を微妙に抱く私がいる中、
「ぶぅ……アリンの魔法は完璧だったお~」
一人、拗ねてる三歳児。
結局の所、空間転移はバアルにやって貰った。
ユニクスを空間転移させた事で、実質成功率は100パーセントになったが、試行回数がたったの1回しかない100パーセントに安全性を感じる事がどうしても出来なかった。
反面、空間転移魔法その物に関しては、私も興味がある。
恐らく……私が知る限りで、空間転移魔法を人間が発動させたのは初めての事ではないだろうか?
一応、召喚魔法を少し捻って、結果的に瞬間移動が可能になった魔法とかはあるが、純粋に空間転移の技術を使っての魔法は、これが初めての事だと思う。
そう考えると、母親としても鼻が高い。
世界で初めての空間転移魔法を発明した者の親になるんだからな?
ついでに言うと、私も扱う事が可能の筈だから、色々と教えて貰いたい。
「まぁ、アリンの空間転移魔法は、次の機会にしよう? それまでは、その魔法をより確実に安全にする研究を『一緒に』考える事にでもしようか?」
私は笑みでアリンへと言う。
さりげなく『一緒に』と言う部分を強調していた。
「お? か~たまもやるお? 良いお~! 一緒にやるお~!」
アリンはお日様笑顔で、即座に頷きを返していた。
良し! これで、私も空間転移魔法を使える時が来るかも知れない!
心の中でガッツポーズする私がいた時、
「そう言えば、自分も少しばかり気になっていたんだが……本当にアリンは空間転移魔法を使う事が出来たのか?」
バアルがアリンへと口を開いていた。
その表情は半信半疑……と言った所か?
バアル的に言うのなら、アリンの理屈『時空を越えるのではなく、空間だけ越える魔法』自体には、疑問を感じる事なく……むしろ、一理あるとさえ感じていた模様だが、技術的にはかなり高度な物になる為、どうしても本当に発動する事が出来たのかが、疑問だったらしい。
つまり、理論上は間違っていないが、果たして現実に出来る物なのか?……と、こう考えていたのだ。
「出来うお~! バアル学園長は、か~たまに爆破されてて見てなかったけど、ちゃんと使ったお~!」
「そこなんだよ……正直、自分が気絶していなかったのなら、最初からアリンが空間転移魔法を発動させる行為には至らなかっただろうから、どの道、自分がその発動状況を目に焼き付ける事は叶わなかったとは思うんだが……」
少し眉をつり上げて言うアリンに、バアルは顎に手を当ててから悩む様な仕草を作り、
「そうだ、アリン? ここでその魔導式を書いては貰えないだろうか?」
言ってからバアルは右手からポンッ! っと白い煙を出し、大きめのノートとペンを召喚させた。
そして、召喚させたノートとペンをアリンに渡す。
「お? 良いお~!」
バアルに言われたアリンは、ノートに魔導式をサラサラと書き始めた。
……相変わらず、意味不明な魔導式だった。
「……うぅむぅ……すまないが、もう少し文字を綺麗に書いてはくれないだろうか……?」
アリンのノートを見て、バアルが少しだけ眉を寄せた。
確かにアリンの文字は三歳児クォリティーが滲み出ている。
でも、まぁ……読めないレベルかなぁ? 親だからかも知れないけど、私にはちゃんと読む事は出来るぞ?
……意味は分からないがな!
「ア、アリンは、ちゃんと字を綺麗に書いてうから! 読める字を書いてうもんっっ!」
「そ、そうか……いや、しかし……これは……なぁ……?」
バアルは悩みながらも、必死で解読して行った。
やっと文字を覚え始めた三歳児に、酷なお願いだとでも思ったのだろう。
それ以上の言及をする事なく、バアルは何とか読んで行く。
果たして。
「なるほど……この魔導式なら、確かに空間転移は可能だ……可能だが、一歩間違えると恐ろしい事になる。少し書き換えが必要だな? まず、この時間を無効にする補助式だが、ここに更なる二重のプロテクトを……」
バアルはアリンの先生状態で、魔導式の講義を初めていた。
どうやら、バアルにとってアリンが書いている魔導式は、理解可能な代物らしい。
いつの時代に作られた魔導式なのか知らないけど、大昔の文字である事は間違いない。
そう考えると、この文字を知っているバアルは何歳なのだろう?
根本的に人間と悪魔とでは寿命の差があるのかも知れないが、少なからず数千年程度は過去の魔導式を知っている時点で、悪魔ってのは無駄に長生きする存在なんだなぁ……と、意味もなく納得してしまった。
そして、私は気付いた。
すっかり蚊帳の外にされていた事実に。




