【4】
紋様を使い、対象となる存在から力を貸して貰う魔法の場合、その術者の能力と魔力、使う紋様によって差が生まれる。
簡単に言えば、貸して貰える力の度合いが違うわけだ。
よって、貸して貰える力が弱い場合、対象となる存在のごく一部の力を拝借するだけに過ぎない。
さっきの教師が使った天使の加護なんかがそれだ。
元来の力の極々一部を少しだけ借りただけとなる。
しかし、この借りる度合いを上げて行くと、最終的には対象となる本人が直接力を貸してくれる様になり、
『キュァァァッッ!』
あたかも召喚術でも使ったかの様に紋様から出現して来るわけだ。
紋様の力で魔法陣から放出されたのは、鳳凰だ。
不死鳥とも言われる火の鳥。
実は結構獰猛なモンスターでもあるんだが、仲間として契約する事があって以来、私にとってはとても頼もしい仲間でもある。
ちなみに、主従契約ではないぞ? 一応、そう言う感じはあったけど、私は仲間だと思ってる。
要は気持ちの問題だ。
「あわわわわ………」
教師はその場で腰を抜かして座り込んでいた。
情けないな……高が大きい鳥が一羽地面から出て来ただけだろうに。
まぁ、しかし的を通過していた鳳凰は、そのまま的を塵一つ残す事なく消滅させて行った。
目的は完遂だな。
「先生、約束通り学食のパン、よろしくお願いしますね」
私はニコッと笑って言った。
顔では笑顔だった私だが、当然内心は穏やかではない。
この程度で済んだだけマシだと思え。
本当はこの場でソッコーぶん殴って辞表の一つでも書かせてやりたい所だが、生憎今の私は一介の転入生に過ぎない。
転入初日から教師をぶん殴って辞表を提出なんかさせたら、永遠のボッチになってしまう。
精々、周りの生徒に潤沢の感謝をする事だな。
「………」
教師は腰を抜かしたまま、パクパクと口を動かしつつ、頷きだけを返していた。
見れば、周囲の生徒の一部も度肝を抜かれたのか? その場に腰を下ろしている生徒も何人かいる。
………………。
あれ?
こ、これは、あれ?
やり過ぎてドン引きされてる系?
「えぇと、皆さん、もう大丈夫ですよ~」
私はすごーく優しい声で言った。
もう、ブリッ子で良いから思いきり可愛い女子って感じで満面の笑顔を作った。
いや、でもなんかダメだ。
ヤバイくらい空気が重い!
待ってくれ! 私はただ皆と仲良くしたいだけなんだ!
「あ、そだ。先生が学食でパン奢ってくれるみたいなんで、みんなで食べませんかー」
精一杯、可愛い声で言った。
なんでこんな声出してんのあたし?
だが、今は恥ずかしさよりも目前の現実。
とにかく寂しい学園生活なんかしたくない私はなんとかその場を凌ごうとやっきになった。
そんな時だった。
「やっぱり、お前も学園の鬼を退治に来たヤツなのか?」
私に話し掛けて来た生徒がいる。
……ん? てか、隣の子じゃないか。
「鬼退治ですか?」
「違うのか?」
そうだけど、違うとしか言えない。
鬼退治ねぇ。
こっちではそうなってるのか。
「違いますよ」
私はにこりんと明るい笑顔で言った。
よし、これは我ながら良く出来た笑顔だ! 頑張ればこのくらいは出来る。
ほら、どうだこの笑顔!
これで友達くらいにならなっても良いかなって思えるだろ?
さぁ、なってしまおう! 友達に!
「本当か?」
隣の席にいた男子は更に疑う。
まぁ、なんで疑うのかはわからなくもないね。
立て続けに冒険者協会から有能な冒険者がやって来て、死んでいるからな。
中には生徒に扮して学園に入った者もいるし、ついでに殺されている。
学園内でも血なまぐさい事件があり過ぎて、色々と生徒が警戒しているのだろう。
そこに私がやって来た。
ああ、誰も近寄らなかったのは、私が新しい死人になる可能性が高いからか。
場合によっては巻き込まれて死ぬかも知れない相手なわけだし、私がこの学園の生徒なら絶対に近寄らないね。
………やっべ、ボッチ確定じゃん!
「本当です。転入する事になったのも、両親の急死が原因で……元々、ここの学園長が私の叔父に当たる為、この学園の寮に住まわせて貰う事になったのです」
それでもボッチが嫌だった私は、そりゃもう一斉一代の演技をして、眼前の少年にニコニコと説明して見せる。
完全な嘘だが、これはバレない嘘だ。
学園長にはちゃんと口裏を合わせて貰えるし、寮にも住んでる。
両親の急死に関しては本当の事だ。
ただ、もう大昔になると言うだけで。