助け合える明日へ【12】
まさに、精霊達を率いるリーダーらしい、威厳ある微笑みだった。
ちょっとした事でスグにビクビクしている小心者のミズホさんと同一視する事が出来ないまでに凛々しく、堂々とした笑みだった。
こうしてると、やっぱりミズホさんは精霊王としての風格を持っているんだよなぁ……。
なのに、何処か頼りないイメージもあるんだから……その二面性と言うか、ギャップには驚かされるよ。
何にしても、だ?
『ミズホさんの口から、その話がやって来る事を、心待ちにしておくよ』
私も微笑みを作りながら答えた。
こう言った物は、強引に聞き出す事ではないと思う。
水の精霊には水の精霊なりの立場や、尊厳に関わる規律もあるだろうし……何より、ミズホさんの述べた通り、タイミングもよろしくはない。
互いに助け合いましょう!……と断言して間もなく『じゃあ、これを助けてね!』と、いきなり助けを求めて来たのなら、水の精霊王は最初から人間に助けを乞う為に協力体勢を築こうとした、あざとい存在であると思われ兼ねない。
実際にはそんなつもりはなく、純粋に仲良くしたい気持ちで協力体勢を構築しようとしている。
そして、この気持ちをちゃんと周囲の面々にアピールする為にも、いきなりお願いをすると言う行為を控えたのだ。
こう言う判断は、やっぱり精霊王だと思う。
自分があざとい行動をすれば、水の精霊の全体があざとく見られてしまう。
自分が行う一挙一動には皆の代表と言う責任があり、軽率な行動がみんなを困らせてしまう事を、誰よりも熟知しているが故の行動でもある。
……うん。
一瞬でも、ミズホさんを馬鹿だと思った自分が恥ずかしい。
やっぱり、この人は賢いよ。
そして、精霊王と言う名に恥じない行動を自然と行ってると思う。
『……さて。どうやら、私のやるべき事は終わったみたいですね?』
そこで、ミズホさんは軽く周囲を見渡した後、私に右手を差し出して来た。
これに、私もすぐさま応じる形で右手を差し出す。
互いにガッチリと握手をした所で、
『では、私は帰ります……お互い、より良い明日が築ける願いを込めて、今後ともよろしくお願いしますね、リダ会長』
ミズホさんは最大級の友愛の念を込めて私に答えた。
もちろん、私も笑みを返す。
『こちらこそ、よろしくお願いしたい。水の精霊と、我々人間が手を取り合って共存、共栄する世界が明るくなる努力を惜しまずに費やして行きたいと考えてる。これからは互いに仲間として一緒に世界を作ろう。水の精霊王!』
私はニッと強い笑みを浮かべて言った。
水の精霊王……と。
『リダ会長に、精霊王と呼ばれると少し違和感がありますね……別に無理して呼ばなくても良いですよ? 私も、リダ会長の事はリダさんとお呼びしたいですしねぇ?』
『あはは! なら、そうして欲しいよ? なんてかさ? 私は堅苦しいのが苦手でさ? そもそも、最近は会長らしい事なんか全然してないしさぁ?』
『そんな事はありませんよ? リダ会長……いいえ、リダさん? 確かに冒険者のする事ではないかも知れませんが……人間の代表として考えれば、リダ会長は歴史書に名を残す程の偉業を達成してます。人間と精霊との共存……今は、私達水の精霊だけかも知れませんが……リダさんはそのつもりではありませんよね?』
ちょっとおどけた表情で言うミズホさんに、私は苦笑する事しか出来なかった。
しかも、冗談めいた口調ながらも……そこには沢山の期待と熱意が込められている。
きっと、ミズホさんにとっても理想に近い何かを私に求め……そして期待しているんだろう。
ははは……まさか、精霊王様にそんな目で見られる日がやって来る事になろうとは、流石の私も思わなかったな。
『いつかは、そうしたいと思うよ? ミズホさん達だけではなく、他の属性の精霊達……精霊王とも対話して、共存共栄の道を切り開く事が出来ないか、色々と頑張ってみるつもりさ?』
『うん、満点の返事です! そして、リダさん? あなたなら、絶対に出来ます! 期待して待ってますね』
そこまで期待されるとプレッシャーが酷いんだが?
胸中で、思わず毒突きを入れてしまう私がいたけど、敢えて口にする事はなかった。
『では、また会いましょう。次に会える日を楽しみにしてます』
その後、ミズホさんは優しい微笑みを残しながら私の前を去って行った。
見れば、108諸侯の全員がミズホを先頭に、その場から飛んで行くのが分かる。
……そして、カワ子も。
…………ああ。
そうか、ヤツもさっき108諸侯に加わっていたんだな。
でも、任された担当の領地って、ここだよな?
いや、まぁ……すぐに戻って来るんだろうけどさ。
ミズホと一緒にカワ子まで飛び立つ光景を見て、私的に微妙な顔になりつつも、精霊王一行が帰還する光景を眺めていたのだった。




