助け合える明日へ【10】
全く……水属性だけとは言え、精霊の王様を名乗る存在が、どうしてこうも草食動物張りの臆病さを見せて来るのか、甚だ疑問でならない。
そもそも、だ?
『それだけビクビクしてると言うか……私の視点からすれば臆病なレベルだって言うのに、今回は単身でカワ子の所に乗り込むとか……かなり大胆な事をしたよな……?』
私は呆れ眼で言ってみると、ミズホさんは心外をボディーランゲージで激しくアピールしながら反論した。
『そんな事はないです! これでも水の精霊王なんですよっ!? とても勇敢な精霊の王として有名なのですからっ!』
ミズホさんは鼻息を荒くして私に断言していた。
どっかの貧乳が、私は貧乳じゃない! って主張している位、説得力に欠ける台詞ではあった。
反面……蛮勇ながらも、勇猛果敢に単騎で自称・精霊魔王(カワ子)へと乗り込んで行った事も事実ではある。
……でも、やっぱり引っ掛かるんだよな。
『所でさぁ? ミズホさんはどうしてカワ子の所に単独で特攻を掛けに行ったんだ? ミズホさん程の臆病者なら、単騎で挑むなんて真似をするとは思えないんだが?』
『なっ!? 失礼ですね! 私だって勇敢な精霊の王ですから? 水の覇者ですからっ!? その程度の暴挙に出る事だってあるんです!』
ミズホさんは胸を張って言う。
冷静に考えると、自慢出来る話ではないと思うんだが?
『……まぁ、実は、あんまり……と言うか、全く記憶がないんですがね!』
……って、待て。
苦笑混じりにオチの様な台詞を口にするミズホさんの言葉を耳にして、私の片眉がよじれた。
すると、あれか?
カワ子の所に単騎で乗り込んでいた時点で、ミズホさんの記憶は曖昧と言うか、ほぼ無かった事になるのか?
もしそうであるのなら、その時点で既にミズホさんは何者かの手によって操られていた事になる。
そして、現状のミズホさんを見る限りだと、そっちの方がしっくり来てしまうんだから……なんと言うか、やっぱりミズホさんは小心者の精霊王なんじゃないのか? って思えてしまう。
『カワ子が、この山村で暴れていると言う話は、私の元にも来ましたよ? そんな感じの書状が私の住んでいる屋敷に届きましたからね? けれど、108諸侯の一人とも言える、トウキを統治している精霊が鎮圧すれば良い話だろうと思って、その時は私が動くつもりなんて無かったんですよ?』
そこから軽く説明口調で話して来たミズホさんの言葉を耳にして、ああ確かにそうなるなぁ……と納得する。
水の精霊王は、全世界に存在する水精霊の頂点に君臨する精霊王。
そんな世界の精霊王が、一部地域で発生したイザコザ程度のレベルで、いきなり単騎で突っ込んで来る筈がないのだ。
そこを加味するのであれば、確かにミズホさんの言ってる事は正しい。
『だた……この書状を読んで間もなく、何故か目眩を感じまして……以後の記憶が曖昧に』
『……なるほど』
ミズホさんの言葉を聞いて、色々と合点が行った。
つまり、これは最初から仕組まれた策略であったのだ。
下手をすれば、カワ子が魔王にナール……とか言う、おかしな魔導器の超大当たりを引いた事すら、なんらかの方法で意図的に超大当たりを引かせる事が出来たのかも知れない。
くそぉ……そうだったのか!
なら、バアル達は悪くないよなっ!?
もちろん、その上位に存在する私にだって責任はないよなっ!
悪いのは、一連の騒ぎを引き起こしたヤツだ!
うん、そうだ! そう言う事にして置こうっっっ!
私は自分の都合に合わせた解釈を……もとい、実に合理的な判断によって、様々な謎を解明する事に成功した!
よし、この一件は、これにて落着だ!
これ以上、蒸し返すのはやめて置こう!
『極論からして、ミズホさんは気付いたら騒動に巻き込まれて……しかも、世界を揺るがす大事件になり兼ねないと思ったから108諸侯とか言う、有力な水の精霊達を率いて、再びここにやって来た……って感じかな?』
『かなり極論になってしまいますが、そんな感じでしょうか?……これで、私が臆病ではない事が証明されましたよね? ちゃんと事件を重く見て、絶対に解決する意思を以て、ここに戻って来たのですから!』
……いや、それはどうだろう……?
少なくとも、自分の全勢力に近い存在を結集させている辺り、かなりのビビりなんじゃ?……とか思う私がいたけど、敢えて茶化さないで置いた。
変に蒸し返す事で、私にとって都合の悪い部分まで蒸し返され、見事な薮蛇になりそうで怖いからだ。
いや、もうね?
これはこれで悪いとは言わないし、精霊王様が勇敢に戦った!……って事にして置けば、全てが丸く収まる物だと思ったんだよ。
取り敢えず、魔王にナールの販売戦略は変えろとだけ言う予定だよ。
それで全てが万事解決!……にして置こう。




