助け合える明日へ【9】
よって……私の中に存在した一抹の葛藤は、更に増長の一途を辿ってしまう。
途中、敢えて見逃してやろうか?……と言う選択肢すら、私の思考に芽生えていた程だ。
しかし、ヤツはやっては行けない事をしてしまった。
私の眼前で愛娘の鼻を折った事は万死に値する!
当然ながら、これで私の思考は大きく傾いて行った。
……ふ。
今、自分の事を振り替えると、やはり私も人の子だと言う事だ。
やれ共和だ、共存だとのたまい続けても……結局、我が子を殺そうとした輩を許す気にはなれなかった。
ヤツが行った最大の悪手は、私の前で愛娘を葬り去ろうとした行為だろう。
そして、ヤツにとって致命的な物となったのは、己に対し過剰な自信を持ってしまった事。
途中、私は何回も言っていたのだ。
お前は私には勝てない……と。
どうして、その台詞の意味を『ちゃんと考える事』が出来なかったのか?
結局、あの時点でのヤツは、自分なりの最終形態……つまり、奥の手が存在してが故に過信してしまったのだ。
だが、その時点でどうして思わなかったのだろう?
その奥の手を含め、全てを折り込んだ結果を、私は口にしていたと言う事実に。
結局……やっぱり、過信は己の破滅を生むと言う事なんだろう。
謙虚が過ぎれば、己の躍進を阻む結果になるかも知れないが、過信が過ぎれば己を破滅させる序曲にも繋がる。
どちらが良いのかは、その状況次第ではあるけど……身を滅ぼす位なら、私は謙虚なバカである事を選ぶね。
謙虚過ぎてチャンスを逃すバカであっても……さ?
「……ふぅ」
水晶玉を握り潰した所で、私は深く息を吐く。
その息は、邪神を倒せた事で生まれた、安堵の息か?
その息は、結果的に邪神との友好を築く事が出来なかった悲嘆の吐息か?
自分の口から吐き出して置いて、その意味を知る事は……ついぞ、なかった。
「……まぁ、結果はどうあれ……終わったな」
独りごちる様に、口から吐き出しつつ……私は周囲を見た。
元から粉微塵状態にまで肉片が舞っていたせいか? 前回の邪神……前世のアリンが学園で暴走した時から比較すれば、実にナチュラルな物だった。
あの時は、既にある程度まで再生が始まっていたから……肉片がぐちゃっ! って、雨の様に降って来たんだよなぁ……。
今にして思うと、あれ……夢に出て来そうなスプラッタ現象だった様な気がする。
トラウマにこそならなかったが……あんなエグい代物を見ずに住んだのは幸いであったのかも知れない。
そこはさて置き。
粉微塵と化した肉片が、粉末状のまま風と共に去って行くのをゆっくりと確認しつつ、私は近くにいたバアルとミズホさんの元へと向かう。
私と人工邪神の激突が確定になった所で、二人も退避する形でやや遠くの方まで後退していた模様だったのだが、
「流石です……やはり、自分の崇拝するリダ様は素晴らしい! その色々と未成熟なボディーに秘めるパワーには驚かされる事ばかり! これぞ正に! 貧乳パワーッッッ!」
ドォォォォォォォンッッッ!
戦闘が終了し、意気揚々と私に近付いて来た所で、早々に爆発していた。
「ぐぼわぁぁっっ!」
そして、断末魔の様な悲鳴を上げてノックアウト。
……お前、もしかして自殺願望でもあるのか?
『あ、あのぅ……リダ会長? いや、リダ様っ!? わ、私は何もされませんよね? 実は爆破が挨拶だ! なんて、理不尽な事は言いませんよねぇっ!?』
直後、近くにいたミズホさんが、小動物の様な態度でビクビクしながら私へと声を投げ掛けて来た。
『別に私だって鬼じゃない。コイツは私に爆破されたがっていたから、爆破させただけだ。ミズホさんがそうしたいのなら爆破するけど、そうじゃないのなら、無闇にポンポン爆破なんかする物か』
答えて間もなく、私は胸中でのみ嘆息した。
こいつは地雷ワードをあけっぴろに使って来るが故に、ポンポン爆発しているだけに過ぎないんだよ。
……最後の強敵を倒して間もなく、やって来た台詞が『貧乳パワー!』とか、草も生えやしない!
もはや、私の感覚で物を言うのなら、爆破願望でもあったんじゃないかと思えてならないよ! 全くっ!
『そうですが……それなら良いのですが……?』
ミズホさんは、一定の理解を示す形で相づちを打っていたが……やっぱり本気で信頼している様には見えなかった。
だ・か・らっ!
私だって、ふざけた事を言われない限りは、至って温厚かつ平和な、優しい乙女なんだよっっ!
そうと口から出掛かる私がいたが、実際には口にしなかった。
だって、自意識過剰過ぎるからなぁ……お前、どんだけ物静かな女なんだよ? とかって思えるし。
『と、ともかく……爆破はしないから安心してくれ』
『わ、分かりました! 安心して警戒させて頂きますっ!』
安心してないじゃないかぁぁぁぁっっっ!




