助け合える明日へ【6】
『ふぼぁっ!』
鮮やかに決まった右拳の一撃で、クリーチャーは瞬時に吹き飛んで行く。
軽く百メートルは吹き飛び、最終的に山の斜面に身体をめり込ませた事で止まったクリーチャーは、
ボンッッッ!
めり込んだ斜面から爆発させる様な勢いで飛び上がると、間もなく私の前へと戻って来る。
『……お前は……何者なんだ?』
愕然とした面持ちで私に尋ねて来た。
お前は何者……って、見れば分かる事じゃないのか?
『見ての通り、ただの人間だが? それ以外に何があるって言うんだ?』
『ふざけるなっ!? お前の様な人間がいてたまるかっ!』
『それが居るんだよ? 人間ってのはな? お前らが考えている以上に強くなる事も出来る……そう言う不思議な生き物なんだよ』
強く感情的にがなり立てたクリーチャーに、私は逆に平静な声音で返答していた。
そして、にこやかな笑みを作ってアリンを撫でつつ、アリンを自分の胸元から下ろした。
「か~たま……あれ、凄く怖いんだお……」
程なくして、アリンが珍しく怯えた表情をみせていた。
……無理もない。
まだまだ小さい子供なんだ。
本当なら、守って上げないと行けない立場の子供なのだ。
そして、自分の子供を守るのは親の義務でもある。
もちろん、私は我が子を守るぞ!
「大丈夫、大丈夫! さっきも言ったろう? 怖いお化けは、か~たまが懲らしめてやるから。お前はみんなの所に行って、ちょっと待っててくれ」
やんわりと微笑んで答えた私の言葉に、アリンはコクンと頷きだけ見せた後、素早く飛んで行った。
……よし。
これで、アリンも無事に退避する事が出来たな。
飛んで行くアリンの姿を見送って間もなく、私は近くにいたクリーチャーへと視線を向けた。
『……さて? お喋りはここまでだ。お前は一つ大きな間違いを起こした……それだけは償って貰う。他の誰が何と言おうと……これだけは許せない』
そして、厳めしい表情を作ったまま、クリーチャーへと答えた。
『償う……だと? くくく……ふふふ、はははははっ!』
私の言葉を耳にした直後、クリーチャーは何かのツボにでも入ったかの様に笑い始める。
てか、本当……コイツのオツムは大丈夫だろうか?
正直に言うと、コイツの余裕は何処からやって来ているのか?
私にはサッパリ分からない。
ただ、余裕をかましてくれたお陰で、アリンはしっかり逃げる事が出来たし、追い討ちを掛ける様な真似もして来なかったので、私としては大助かりだった。
……まぁ、飛んで行くアリンに攻撃を加える……なんて野暮な事をした日には、それがクリーチャーの最期になっていたろうが。
その事実を知ってか知らずか?
はたまた、別の理由でもあるのか?
どの道、ヤツは全く動じる事なく私の前で高笑いをみせていた。
『人間と言うのは、本当に愚かだ……まさか、今の俺様が持つ力が、これだけで終わると本気で思っているのか?』
侮蔑にも近い声音と態度で、そうと答えるクリーチャーがいた時……ヤツのエナジーが……身体が革命を起こしたかの様に変化を起こした。
これは……なんか……エグいな。
別に変化に伴うエナジーの強さがエグいと言ってる訳ではない。
身体その物を変革させた、その姿がエグい代物と言えた。
なんてか……おぇっ!……ってなる。
やたらグロテスクな化物に変化したと述べるべきか。
ドロドロの溶液みたいなのを口から吐き出し、腕が六本に増えている。
大きさも更に増幅し……五階建ての建物程度の大きさにはなっていた。
身体のあちこちも、何故か腐食しており……ボロボロの肉塊を落としている。
一言で言うと、キメラのゾンビバージョンみたいな状態になっていた。
『ふははははっ! みよ! この力を! この、圧倒的なパワーをっ!?』
完全に変化が終わったのか?
ヤツは、有頂天になる感じで叫んでいた。
……はぁ。
『やれやれ……だ』
私は胸中で嘆息し……顔で呆れてみせる。
私は言った筈だ。
『何度も言わせるんじゃない……お前は、私に勝てない』
『自惚れるなぁっ! 人間ごときが! 人間ごときが、この邪神様に勝てると思うな! その傲り昂った性根を、今すぐに叩き潰してくれるわっ!』
己の最終形態を見ても、全く動じる事がなかったのが気に食わないのか?
ヤツは激昂し、口からレーザーの様な物を吐き出して来た。
……刹那、私は補助スキルを発動させる。
厳密に言うと、そのレベルを上昇させた。
超龍の呼吸法レベル4!
そして、同時に私の右手が動き、
超炎熱爆破魔法!
私の必殺魔法が発動した。




