助け合える明日へ【2】
カワ子ではないけど、私も感心した。
……つくづく思った。
アリンはちゃんと……しっかりと、人間としての心を成長させている……と。
純粋に単純に、図体ばかり大きくなった様なヤツにはならないで欲しいと思っていたりもしたんだが……そんな心配は無用だったな。
この調子で、人としてのモラルを……命の大切さを……どんな生き物であっても助け合える以上は仲間なんだと言う気持ちを持ち続けて欲しい。
こんな事を、私は思ってしまった。
他方、その頃。
『何だ? 何だぁ……? 二人合わせても、この程度の力しか出せないのかぁ? はははははっっっ!』
バアルとユニクスの二人は、クリーチャーの猛攻を、巧みな連携を使って上手に防いでいた。
見る限り、普段から練習でもしてたんじゃないのか?……と嘯きたくなるまでに息の合った動きを、当たり前の様に展開して行く。
しかし、戦況は余り芳しくはない。
上手に防ぐと言う様な表現をしていたので、多少は分かってくれたかも知れないが……完全に防戦一辺倒の戦いと述べても過言ではなかった。
これが、周囲の面々を考慮した行動であったのか?
はたまた、本気で動いていての結果なのか?
私が見る限りでは、どっちにも見て取れるから困る。
正直、かなり善戦している様にも見えるけど……なんて言うか……だ?
『ほれほれ? どうした? どうしたぁぁぁっ!? お遊戯がしたいのなら、多少は付き合っても構わんが、いつまでも遊んでやるとは限らないぞぉ~?』
クリーチャーの態度と声色から考慮しても、確実に本気を出している様にはみえなかった。
実際、余裕を持って口を開いてる所からしても、クリーチャーが本気を出している様にはみえないし……恐らく、額面通りと捉えても構わないだろう。
……やっぱり面倒な強さを持つ相手だったか。
やれやれ……と、私は心の中でのみ嘆息した。
素直に言うのなら、私も今すぐにユニクスやバアルの二人へと加勢をしに行きたい気持ちがある……と言うか、かなり強い。
しかし、正しく現状を把握しているアリンの言葉通り……今、ここで私が本気でクリーチャーを倒しに掛かるのは得策ではない。
水の精霊達が私にくれた力はまさに絶大で……超龍の呼吸法レベル3を発動させていると言うのに、全く苦にならない。
その気になれば、レベル4であっても普通に維持する事が可能なんじゃないだろうか?
そんな、強気な台詞を口にしたくなるまでに、超龍の呼吸法を発動する事で生まれるリスクが激減していた。
厳密には、やっぱり……そこかしこにはエナジーと言うか気力を吸われていると言う感覚はあるのだが、これまでの感覚からすれば可愛いなんて物じゃない。
正直、私の体内でどんな革命が起きてるんだ? と、アホな台詞を本気で言いたい状態だ。
それだけに、レベル3を維持したまま、ユニクスとバアルの二人がクリーチャーと戦っている状況を傍観する事を可能にしていた。
つまり、その気になればいつでも戦闘に参加する事が可能だったのだ。
……くそ、どうする?
あのクリーチャーが嘘を言っているとは思えない。
そうなれば、ヤツはプロトタイプ邪神だったアリンの前世を大幅に改良した正規の邪神なのだろう。
正直、邪神にバージョンが存在している時点で、なんともおかしな話をしているなぁ……と思える私がいるけど、表現的には間違っていない筈だ。
ヤツが正規の邪神であれば……これは、精霊魔王(カワ子)の比にならないレベルの危機だ。
割りと本気で世界滅亡の序曲になり兼ねない。
ここを加味するのであれば、魔狼や魔導師組合の面々には悪いが……周囲の被害をガン無視してでもクリーチャーを葬り去る必要があるのかも知れない。
小さな被害で、世界規模の危機を救えるのであれば……少ない代償と割り切る事だって出来る。
だけど……思う。
ここで、そんな事をしてしまったら……折角芽生えた友愛の関係を根底から破壊してしまうのではないか?
種族を越えた協力……そして共闘。
助け合う事で生まれる共和の世界。
私にとっての理想が、そこに生まれていた。
何より、娘のアリンが私の気持ちに忠実な判断を下して、現状での戦闘を敢えてやらないでいる。
そんな中、全てを無視してまで、私が動いても良いのだろうか?
私の中に生まれた葛藤が、強く激しく胸を揺さぶった。
くそ……どうすれば……?
悩みあぐねた私がいた頃、アリンとカワ子の二人が行動を始めた。
……?
もしかして、痺れを切らしてクリーチャーに攻撃を仕掛ける気かっ!?




