精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【24】
……ああ、やっぱりそうか。
コイツは、アリンの親戚みたいヤツだった。
厳密に言うと、今のアリンは人間であり……私の娘だ。
よって、アリンの前世に当たる存在が、今いるソドムとか言うクリーチャーのプロトタイプと言う事になる。
……尚。
もう既に読んでる方を前提としている為、ここでは詳しい事を言わないが……四編目の最終章辺りを読むと、ここらの詳細が分かると思うので、気になった人は読んで見ると良いだろう。
そこらは置いといて。
『私が知る限り……人工邪神は試験段階で、完成には至らなかった筈だが?』
私はクリーチャーへと、片眉を捩らせながらも尋ねてみた。
プロトタイプでもあるアリンの前世が私に倒されて転生魔法を受けたのは、ほんの数ヵ月前。
それだけの短期間で簡単に完成する事が可能であったのなら……今頃とっくに人工邪神なる存在は広く世に出回っている筈だ。
しかし、現状でそんな不穏な空気が出回っている話を聞かない。
仮に邪神を研究している研究所が情報を完全にシャットアウトしていたとしても、風の噂程度の物はやって来る筈だ。
特に、私の回りには情報収集能力に優れている人形マニアがいるからな?
殊更、こう言った情報をキャッチ出来なかったとは思えない。
そこを考えると、やっぱりハッタリをかましているのか?……と、考えていた時、
『邪神ってのは優秀なんだ。時空を飛び越えるぐらい、朝飯前なのさ』
ええぇぇ……。
私はクリーチャーの反則技を耳にして少し引いた。
つまり、コイツは未来からやって来たと言う事になる。
過去であれば、間違いなく今よりも邪神開発が進んでないだろうから……自ずと未来から来たと言う事になるわけだ。
『お前……時空を司る女神に怒られるぞ……?』
『ふん! 知った事か! 俺様は邪神だぞ? たかが時の女神ごときに罰せられる程、弱くはないね!』
忠言半分に言う私の言葉に、クリーチャーはふんぞり返って豪胆な台詞を言い放っていた。
そして、好戦的な笑みを色濃く浮かべながら答えた。
『俺が知る限り、そこのカワ子とか言う下級精霊が精霊王に成り代わって、水の精霊王を支配し……他の属性の精霊達へと世界レベルの戦争を吹っ掛ける。そうすると、他の種族……特に人間が無駄に戦争を始める様になって行き……戦乱の風が世界に荒れ狂う筈だったんだ。本来なら、それが「正しい歴史」でもあった』
ここまで答えると、クリーチャーは心底つまらない顔になってから嘆息する。
『だから俺は、これから起こる戦争の駒をどう使おうと勝手だと思えた……どうせ、これからバタバタ死ぬんだ? 俺のオモチャにされて死んでも同じだろう? ははははっ!』
……腐れ外道過ぎるなコイツ。
そして、とうとう自分の口からもカワ子達を虐げた事実を認める発言を口にして来た。
『やっぱり、お前はクビになって当然だよ……腐れクリーチャー野郎』
沸々と込み上げて来る怒りの感情を露骨に顔へと出しながら、私は補助魔法と補助スキルを発動させた。
超龍の呼吸法レベル3!
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体速度上昇魔法レベル99!
ドドンッッ! と、超アップ状態になった私。
その瞬間、周囲が凄い状態になるかと思いきや…………あれ?
ここに来て私は気付いた。
周囲に何の変動が生まれていないと言う事実に。
おかしいな?
いつもなら、もっと……こうぅ……どどどどどんっっ! ってのが、あれこれ起こる筈なんだけど……?
反面、私の中で発生している超アップ状態はちゃんと発生している。
……なんだろう、これ?
思わず小首を傾げたい気持ちで一杯になる私がいたのだが……現状で分かるとは到底思えない。
仕方ないので、後で調べる事にして置こう。
……まぁ、どんな書物を読めば答えが載っているのか、全く以て皆目見当も付かないけどなっ!
話を戻そうか。
『それが、貴様の本気か……なるほどなぁ……やはり、108諸侯の加護を受けただけはある。きっとこれも元来の時代にはなかったアクシデントの様な物か……まぁ、構わないが』
答え、ニヤリと笑みを強くする。
……他方、
『リダさん! ここはお互いに協力しましょう!』
カワ子が真剣な顔になって、私へと申し出て来た。
……お前、本当にカワ子か?
ついつい、こんな事を胸中で考えてしまう。
だが、同時に思った。
今のカワ子は、もう昔のカワ子ではない……と。
ひねくれた心を持つイタズラ精霊は卒業した。
ひねくれた心が拗れて、精霊魔王を自称するに至った、不徳な精霊も卒業した。
そして、卒業と同時に……カワ子は誠実に生きる存在へと編かして行ったのだ。




