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精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【22】

 他方の私も、思わずポカンとなってしまった。


 正直、それは罰と表現して良い代物なんだろうか?

 こんな事を胸中で考える私がいる中、ミズホさんは笑みを作りつつ答えた。


『良いか? これは罰だ? よって、お前に拒否権はない。今後はトウキ帝国内に住む水精霊達を上手に纏め上げ、活気ある豊かな生活を送れる様、尽力する事を約束しなさい』


『あ、あのぅ……お言葉ですが、精霊王……』


『何かな? さっきも述べた通り、あなたに拒否権はないぞ?』


『えぇと……そこに付いても若干の戸惑いもございますが、そうではなく……』


 ここまで答えたカワ子は物凄く自信のない様な顔を作ってから答えた。


『私に、その様な大義が出来るとは思えないのですが……?』


 ……まぁ、言いたい事は分かる。


 これまた抽象的な話になってしまうが……平社員が唐突に『お前は今日から部長だ』と社長から辞令を受けたとして……じゃあ、平社員が部長の仕事をバリバリこなせるのか? って話になる。

 答えは簡単。

 そんな筈がない。


 それ相応のノウハウがなければ仕事が出来る筈もなく……上位管理職に昇格するにしても、まずは見習いから始める事が一般的だ。

 

 何の経験もノウハウもないカワ子が、いきなりそれをやれと言うのは、余りにも無理難題過ぎるのだ。


『先程から言ってるだろう? これは「罰」であると。お前はこれから、様々な困難にぶつかり、そして苦しむ事になる。そしてこの苦しみこそが私がお前に与える罰であり罪への清算なのだ……それに、だ?』 


 ここまで答えたミズホさんは、更に拍車を掛ける勢いで柔和な笑みを作り出した。


『私は、カワ子……お前ならやれると思う。これでも伊達や酔狂で精霊王をやっている訳ではない。ひねくれた事をやられた腹いせに、ひねくれた行動を取ったかも知れないが、真っ当な誠意に対してなら真っ当な誠意で示してくれると信じている。だから、カワ子……この罰を受け入れなさい』


『……ミズホさま』


 ひたすら穏和に……暖かい笑みを見せていたミズホさんに、カワ子は再び感涙の涙で頬を濡らした。

 きっと、自分でもビックリするぐらいに瞳から涙が流れているんじゃないだろうか?

 同時に、カワ子は再び平服してからミズホさんへと答えてみせる。


『ミズホさま御気持ち……そして、罰を受け入れます』


『よくぞ言った!』


 カワ子の言葉を耳にしたミズホさんはニッと快活な笑みを作り出してから、水の精霊達へと声高に叫ぶ。


『皆の者! たった今より、新しい108諸侯カワ子が誕生した! 先程除名したソドムに代わり、ここトウキ帝国内で活躍する新しい水精霊の長だ! 拍手で称えよ!』


 ミズホさんが叫んだ直後、周囲から大きな拍手が巻き起こった。


 正直、義理でやってる拍手なのかなぁ……と思う所もあったが、あながちそうでもなさそうだ。


『流石、ミズホ様! 精霊魔王すらも屈服させる温情と道徳心には感動しました!』 


『戦わずして魔王の気持ちを掴む……まさに平和解決の良いお手本です! 素晴らしい!』


『カワ子ちゃん! 可愛いよカワ子ちゃん! はぁはぁ!』


 ……最後は必ずオチの様なヤツが混じるのはどうしてなのだろう?

 何にしても、108諸侯とか呼ばれている連中は、基本的にミズホを尊敬しているヤツが多い為か? やっぱりカリスマ的な能力でカワ子を己の配下にした姿に驚きと感銘を受けている模様だ。


 実際、私もビックリした。

 本当に立派な精霊王であり、素晴らしい名君だとも思える。


 だけど、ここまで理知的な思考を生み出す事が可能な、平和的な名君でもあるミズホさんが、どうして単身でカワ子の元へと殴り込みを掛ける様な暴挙に出てしまったと言うのだろう?


 素朴ながらも謎でしかなかった。


 頭に血が昇りすぎて、思わず感情的になり過ぎてしまったのだろうか?


「うーん……」


 そう考えると……温厚な人でも間違いを犯す事はあるんだなぁ……なんぞと、胸中で考えていた時だった。


『ははははははははっ!』 


 無駄に甲高い声で大笑いをする輩が一人。


 さっき、108諸侯だかをクビにされてしまった水の精霊から出た笑い声だ。


 ……ああ、まだ居たのか。

 てっきり、ミズホさんに『出て行け!』って言われてすぐに、どっかへと居なくなっていた物だとばかり思っていた。


 しかも、悠長にカワ子とミズホさんの会話まで聞いてたのな?

 そう考えると、こいつも大した面の皮だ。


 この時の私は、自分の任された領地……トウキ帝国内で、下位精霊を不当に酷使していた事がバレてクビになった、馬鹿な水の精霊……程度の考えだった。


 それが、実は大きな間違いであった事に気付けなかった。

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