精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【21】
……しかし、ここで権力に関係する反論をするのは、タイミング的にどうなんだろう?
こんな事を考えた私がいた頃、ミズホさんは依然として威厳のある顔を作りながら口を動かした。
こう言う顔をしていると……なるほど、ミズホさんは水の精霊王なんだな……って思えるから不思議だ。
『水の精霊に限らず、序列の高い上位精霊は、下位精霊の安寧を約束するからこそ上位精霊としての権威を持つ事が可能になっている。何でもかんでも自分が頑張ったから今の地位があり、権威を持っていると勘違いしていないか? 己が配下に置いている存在は自分の所有物ではないぞ? 互いに明日を生きるパートナーだ』
『パートナー……? はは……お言葉ですが、精霊王? いざ戦争になれば、単なる駒に過ぎない下級精霊を、自分と同等に扱えと? それは無理があります。即刻、撤回すべきかと?』
……こいつ、本気で言ってるのか?
思わず、私は耳を疑った。
同時に確信したね!
これは……カワ子が言っている事の方が正しい!
『なるほど……理解したよ、ソドム。お前は我が水の精霊108諸侯には相応しくない模様だ』
ミズホさんは、百人以上いるだろう水の精霊にいた一人……恐らくソドムと言う名前の精霊に向かって、そう答えた。
てか、108人だったのか。
今知った、新事実でもあるけど、果てしなくどうでも良い気がする!
そこはさて置き。
『たった今より、貴様は水の精霊108諸侯から除名する。即刻、この場から去れ』
ミズホさんは、冷ややかな目で淡々と口を動かして行った。
『…………』
そんなミズホさんの一部始終を見据えたカワ子は、かなり驚いた顔のまま無言で彼女の姿を見据えていた。
言葉は何も発していなかったが……カワ子にとっては驚きの連続だったのだろう。
無理もない。
カワ子にとって序列が身分であり、己の力であり……権力だ。
最下級クラスの精霊でもあったカワ子からすれば、最上位に位置するミズホさんの態度は天地がひっくり返ってもあり得ない。
抽象的に言うのなら、平社員の言葉を信じた社長が、部長の首を切っている様な物だ。
普通に考えたらあり得ない。
だが、それでもミズホさんはカワ子を信用した。
そして、権力ではなくモラルを重視した。
良くみれば、カワ子の目から涙が出ているのが分かる。
結局……カワ子的に言うのなら、復讐も兼ねてミズホさんに催眠魔法まで施し……挙げ句、自分の駒として使う様な真似までしたと言うのに、それでもカワ子の言葉をしっかり受け止めて、自分達の非を認めたのだ。
果たして。
『ミズホ様……すいませんでしたっ!』
カワ子は即座に跪いて、心からの謝意とばかりに土下座した。
これには、流石の私もポカンとなった。
まさか……あのカワ子が自分の意思で、心からの謝罪をして来るとはっ!?
同時に思った。
これこそが王たる証しなのだ!……と。
ミズホさんは、武力ではなく精神的なカリスマ性を以て、カワ子を完全に感服させた。
威厳や権威……そう言った物を持っていながらも、それらに一切の傲りを見せる事なく、王としての気高い思想を以てカワ子を説き伏せた姿は……まさに風格すら感じる。
今後は、私もミズホ女王とでも呼ぼうかねぇ?
……そこはさて置き。
『私が行ったミズホ様への非礼を許して欲しいとは言いません……相応の罰は覚悟します。ですが、私の同胞達には罰を適用しないで頂きたく思います。全ての責任は私にあるのです』
土下座状態になっていたカワ子は、懇願する形でこうとも言う。
…………うぅむぅ。
最初に会った時からそうだったが、私はカワ子と言うひねくれた存在を、色々と曲解していたのかも知れない。
確かにカワ子の性格は悪い。
きっと、すこぶるひねくれている。
だけど……そう言ったカワ子になってしまったのには、やっぱりひねくれた過去が山の様に存在していたんじゃないのか?……と、思えてならない。
『なるほど……分かった。ならばカワ子? お前に罰を与える』
カワ子の申し出を耳にし、ミズホさんは真剣な表情を一切崩す事なく相づちを打った。
この言葉を耳にし、カワ子もビクンッ! っと、反応する。
……え? やっぱりカワ子も罰を受けるのか?
少し違和感を抱く私ではあったが、これは水の精霊同士の問題なので、部外者の私が口出しをする問題ではない。
本当は少し物を申したい気持ちで一杯だったりもするけど……そこはグッと我慢してみせた。
……けど、やっぱり……カワ子がここで罰を受けるにしても、それ相応の酌量を汲んで上げても良いんじゃないかなぁ……?
……なんて感じの事を考えていた時、ミズホさんの口が動いた。
『では、カワ子。お前には本日より我が108諸侯の一人として、ここトウキ帝国内に住む水の精霊達を束ねる長となる『罰』を与える』
『…………は、はい?』
ミズホさんの言葉に、カワ子はポカンとなってしまった。




