精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【17】
「じゃあ、私は行って来る」
鳴り止まない沢山の拍手を背に、私は穏やかに微笑みながらミズホへと口を動かした。
「はい! 御武運を!」
ミズホさんは、私から手を離して間もなく、砕けた笑みを浮かべてから親指を立てた。
権威ある精霊王がやって良い態度なのか分からない行動ではあったが……私なりには最上級の送り出しだ。
妙に格式張った態度を取られるより、今の様なフリースタイルで分かりやすいエールをボディランゲージで示して貰った方が、私としても対応がしやすい。
この返事も、実にシンプル。
私も、グッと親指を立てて、ミズホさんへとニッコリ微笑んだ。
そして、くるっと踵を返す。
未だ鳴り止まない拍手をバックに、こうして私はカワ子とのリベンジに乗り出そうとした。
……その時だった。
「……ん?」
最後に、背中を向けた状態で拍手で私を見送る水の精霊達へと手を振ろうとした所で、上空に小さな何かがこちらに近付いて来るのが分かった。
「……何だ、あれは?」
カワ子がこちら側に乗り込んで来たのかと考えた私であったが……その思考は一瞬で霧散する。
何故なら、結構なスピードでこちら側に飛んで来ていた正体が、すぐに肉眼でも見て取れるレベルになっていたからだ。
果たして、上空に姿を現したのは……。
「アリン……なのか?」
……何かを担いだ状態で滑空魔法を発動させていたアリンであった。
根本的に身体が小さいからなのだが、自分よりも大きな少女を担いで飛んで来たアリンは、思わず呆気に取られてしまう私を見付けると、
「おお! か~たま! 元気になったお~っ!」
溢れんばかりの笑みを満面に浮かべながら、私の眼前に着地した。
そこから、担いで来た少女を無造作にポイッ……と。
……これこれアリンちゃんや、人様の娘をそんな物みたいにぞんざいな扱いをしちゃダメじゃないの。
実際に口でも出掛かる私がいたが、アリンを窘める台詞は途中で消滅していた。
理由は簡素な物だ。
軽くポイッ! っとやっていた少女は……自称・精霊魔王のカワ子だったからだ。
……ええぇぇぇ。
私のテンションは大きく下がった。
この瞬間に、私は全てを悟ってしまった。
ああ……この三歳児は、ふつーに今回のラスボス的な相手を倒して来ちゃったのね……。
なんともやるせない気持ちで一杯だった。
同時に、周囲の面々からやって来る視線が痛い。
抽象的に別の状態で例えよう。
これから、勇者が魔王を倒しに、周囲の拍手を受けて旅立とうとしていた!……と、仮定して。
沢山の喝采と拍手を手向けられ、血気盛んに第一歩を踏み出した勇者がいた……と仮定しよう?
この状態で、最初の一歩を歩んだ瞬間に、別の勇者が魔王を倒して来ちゃった。
……門出を祝われた勇者は涙目ではないだろうか?
そして、涙目の勇者はどんな扱いを受けてしまうのだろうか?
もうね……正直、私は考えたくもないよっっ!
せめて、現地に向かったらアリンがカワ子をハッ倒す直前程度であったのなら、まだ色々と誤魔化しが……げふんげふんっ!……私も戦った事にも出来た気がするが、この状態では何の言い訳も出来ない。
……どうしよ。
これ……精霊の加護なんか要りませんでした!……って、オチだよね?
つか、マジで要らなかっただろ……あの、満腹でも強引に口の中へと押し込まれた、あの苦しみは……一体?
何かもう……色々とやるせない気持ちで一杯になってしまう私がいる中……そんな私の気持ちなんか全く知る由もないアリンは、純朴な笑みを可愛らしくニパッ! っと浮かべて、私に抱き付いて来た。
そして、無垢な気持ちそのままに、
「か~たま! か~たま! アリンね? か~たまをイジメた、悪い精霊をやっつけたんだお~っ!」
意気揚々と私へと語っていた。
……うん。
そこは、か~たまも分かったよ。
そして、アリンもアリンなりに、私の敵討ちのつもりで躍起になってくれた事も嬉しいんだよ。
だから、抱き付いて来たアリンには、素直に頭を撫でて上げた。
「凄いな、アリン~! 本当、か~たまビックリしちゃったぞ~っ!」
そして、頭を撫でながらアリンを一杯誉めた。
てか、お世辞でも何でもなく、本気で凄いぞ……アリン。
我が娘ながら……三歳児の時点で、今の私を上回る実力を誇るとか……末恐ろしいなんてレベルではない!
正直、ハチャメチャに複雑な気持ちで一杯だった。
思えば……確かに、アリンはレベル3を既に発動させる事が可能だった。
私の様に、誰彼の加護を貰って、やっとレベル3に耐えられるだけの精神力を得る……とか言う物ではなく、アリン単体の力でレベル3を維持する事が可能だったのだ。
この時点で、既にアリンの方が私よりも高いステータスを所持していた事となる。




