精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【11】
しかし、そうなるとバアルの空間転移魔法によって次々とやって来ている水の精霊達は、ミズホさんの全面支援による物なのだろうか?
相手は水属性の王と述べて相違無い存在であっただけに、沢山の精霊達がやって来てもおかしな事ではない。
だけど、ミズホさんが声を上げれば、これだけの精霊達が一挙に集まるのかと思うと、やっぱりそれはそれで凄まじい物があるな。
恐らく、カワ子を打倒する為にやって来ているのだろう水の精霊達であったが、その数は優に百人を越えている。
相手が精霊なので助数詞が『人』で当たっているのかは微妙な所ではあるが、今回の所は人と言う表現を取らせて貰おう。
それはともかくとして。
『なぁ、ミズホさん? もしかしなくてもそうだとは思うんだが……この精霊達はカワ子を倒す為に集まって来ている精霊達なのか?』
『ええ、そうですね? 御察しの通り……自称ながらも精霊魔王を名乗るだけあり、あやつの能力は想像を逸しております。私としても総力を結集してでも打ち倒して行かねばならないと判断致しました』
……なるほど。
それで、今の壮観過ぎる状態になっているのか。
能力も高そうな水の精霊が、文字通り大挙して押し寄せている光景は、幻想的と言う表現を通り越して非現実でさえある。
こんな状況を人間である私が目の当たりにする事など、元来ではなかったであろう。
そう考えると、ミズホさんの本気度が伺える。
……だけど。
私は思う。
水の精霊王でもあるミズホさんの尽力を元に集まった、百人以上の強い精霊達には申し訳ないが……恐らく、このままでは勝てない。
精霊魔王なんぞと、嘯いた名前を自称するだけの存在となっていたカワ子の実力は……百や二百の強精霊を集めた程度では、到底敵う様な相手ではなかったのだ。
それだけに、私としては無謀だとミズホさんに言いたい気持ちがあったりもする。
正直、こんな台詞を口にするのはかなり気が引けたのだが……ここで言わなければ、確実に大きな悲劇が発生してしまうだろう。
一方、それなら他に打開策があるのか?……と言われてしまうと、私も黙る事しか出来ない。
故に、私の口も重くなっていた。
ぐむぅ……どうしよう。
このまま行けば、百を越える水の精霊達が、カワ子に事実上の集団処刑を喰らうだけで終わってしまうのだが……だからと言って、精霊達を止めるだけの策がある訳でもない。
どうした物かと頭を捻らせている私がいた時、ミズホさんが急に真剣な顔になって私へと声を開いた。
『恐らく……いいえ、ほぼ確実に……我々があの精霊魔王に特攻を仕掛けても、勝利する事はないでしょう……残念な事ではありますが』
『…………』
ああ、やっぱり気付いていたか。
ミズホさんの言葉に、私は何も返事をする事が出来なかった。
実際問題……彼女の言葉には一切の間違いが存在していなかったからだ。
しかし、それが分かっていても尚……精霊達をここに呼んだのはどう言う事なのだろう?
もしかして……玉砕覚悟で突っ込むつもりでいたのだろうか?
こんな事を曖昧ながらも考えていた時、ミズホさんの持つ真の狙いが明かされる。
『そこで、リダ会長にお願いがあるのです……今、この場に結集した百を越える、私の側近達が一斉にリダ様へと水の加護を与えます。この力を元に、あの忌々しい精霊魔王を打ち倒しては頂けないでしょうか?』
……なるほどっ! そう来たかっ!
深々と頭を下げて来たミズホさんの言葉に、私は思わず納得してしまった。
つまり、ここにいる水の精霊達は直接戦う訳ではない。
百人以上はいるだろう有能な水の精霊達が全員で私に加護を与える事で、私をパワーアップさせる事が主目的だったのだ。
元来であるのなら、一人でも十分な強さを持つ水の精霊が、百人以上も集まり、そのエナジーを私へと一点集中で注ぎ込んでくれると言う、実に有り難い申し出と表現出来た。
……てか、精霊達ってのは凄いな!
人間同士であれば、確実にあり得ない話だぞ?
……正確に言うと、自分の魔力の一部を相手に分け与える魔法やスキルは存在している為、確実にあり得ないと言うのは多少の語弊がある。
しかし、百人を越える存在が、一人の相手へと一点集中でエナジーを注ぎ込む……なんて行為が果たして可能であろうか?
私が知る限りで、その答えは否だ。
そもそも、規模がとんでもない事になる。
序でに言うのなら、集まるエナジーもとてつもない量になる為……それを受け止める方も、相応の器が無かったのであれば、大量のエナジーを取り込み過ぎた事で、暴発してしまい兼ねない。
抽象的に言うのなら、風船をエナジーで膨らませた様な物だ。
風船の大きさに対し……そのエナジー量が多過ぎれば、もちろん風船はパンパンに膨らみ……やがてバーストし、破裂してしまう。
…………。
……ぐむ。
私、大丈夫なんだろうか?




