精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【5】
『……こ、こんな事が……?』
唖然としたまま、カワ子は口を動かしていた。
唖然と愕然を足してもまだ足りない……そんな表情だった。
「言ったろう? お前を倒す力を与えられた……と、な?」
『う、うるさいうるさいぃっ! お前ごとき人間が、この精霊魔王たるカワ子様の実力を上回るなんて、あり得ないっ!』
声高に叫んだカワ子は、いきり立った顔になりながらも私に向かって矛を振り抜いた。
私は動かなかった。
いや、それだと語弊があるか?
正確に言うのなら、右手だけを軽く動かした。
そして、
ガッッ!
右手の人差し指と中指を使い、カワ子の矛を掴んでみせた。
様は白羽取りの格好だ。
『……んなぁっ!?』
カワ子は唖然となり、思わず変な奇声を口から漏らしていた。
無理はないだろう。
今の今までなら、精一杯避けに避けまくり……その行動だけで一杯一杯の状態だったのだから。
それがレベル2から3に上昇した事で、完全に形勢が逆転してしまったのだ。
レベル1から2の時に感じた能力上昇差もかなりの物だったが、2から3は……もはや全くの別物だな。
もしかしすると……レベルは後半に行けば行く分だけ、一つのレベル上昇で大幅な能力上昇が期待出来るのかも知れない。
尤も……それだけ、大量の精神力と言うか生命力を吸い取られる事になるのだろうが。
『く、このぉっ!』
右手の人差し指と中指の二本だけで矛の一撃を止められてしまったカワ子は、焦りながらも私から刃を引き抜いて、再び矛の一撃を浴びせようとするが、
『……えっ!?』
直後にカワ子は気付いた。
いつの間にか、右手の矛が液状化してしまった事に。
『な、何が……?』
突発的に液状化した矛を見て、思わず慌てふためくカワ子がいる中、私はニッ! と笑みを見せた。
「最初はさ? 私も何だろう? この、金属みたいな水は?……って思ったんだがな? 蓋を開けて見れば大した物ではなかった……と言う所か?」
用は、水を鋼鉄化させる魔法を掛けていたのだ。
一応、そんな感じの魔法がある事は知っていたけど……何分、用途がピンポイント過ぎた。
それだけに、すぐには気付く事が出来ない私がいた。
だが、思ったのだ。
現状のカワ子なら、水を色々と操る能力に長けているのだから、水を鋼鉄程度の固さにする事なんか、造作もないのではないか?……とな?
そして、それが魔法による物であるのなら、もはや私にとって脅威でもなんでもない。
「今の私とお前との間にある魔力差は、文字通り雲泥の差がある。……なら、お前の魔法を無効化させる魔法……対魔法を発動させれば、お前の魔法を無効化させる事ぐらい、朝飯前……と言う事になるのさ」
水を強靭な矛にしてしまうまでの硬度を対魔法で強制解除させてしまえば、後はただの水に戻るだけとなる。
もちろん、ただの水では、私の身体に切り傷一つ付ける事は出来ないだろう。
対魔法を発動させる事で、根本的な魔力を持たない……文字通り、普通の水と化した液体は、私のみならず万民にとって然したる脅威にもならないだろう。
『こ、このぉぉぉっっ!』
矛を失い、右手を私に向けたカワ子は、素早く魔法を発動させてみせる。
特大水の爆破魔法!
これも、さっきの魔法か。
思えば、族長精霊もこの魔法を一度使っていた様な気がする。
どちらにしても……だ?
「ふぅぅぅぅぅぅっっ!」
水風船を作り出しては、私の眼前へと飛ばして来たのを見計らって、私はその風船目掛けて口から息を吐き出してやった。
瞬間、これまで私の方向へと向かっていた水風船が、私の口から吐き出された風力によって逆方向へと押し戻される。
『……は? えっ!? ちょっ……嘘でしょうっ!?』
まさか、自分の所に戻って来るとは思わなかったカワ子は、思わず面食らった顔になりつつ……必死になって避けてみせた。
……と、同時に、私の身体も動き始める。
シュンッッ!
おお、軽いっっ!
自分で言うのも何だけど、まるで自分じゃないみたいだ!
レベル3の状態で初めて身体を動かした私は、改めてレベルの違いと言う物を実感した。
凄まじいスピードで動いた私は、水風船を必死で避けたカワ子の背後に回り込む。
『……なっ!?』
目が大きく見開かれていた。
顔では言っていた。
いつ、背後に回ったの!?……と。
……そうだよな?
わかるよ? ちょっと前に、お前が私へとやって来た行動が、まさにそんな感じだったからな?
あの時は、ちょっと怖かったレベルだけど……実際に自分でやって見ると、結構気分が良いな、これっ!
……ではなく。
「終わりだ、カワ子」
有頂天な気持ちになりたい感情を抑えつつ……私はカワ子の顔目掛けて右手を定めた。




