精霊魔王・カワ子VS会長・リダ【1】
このまま行けば……世界の精霊にある均衡が大きく崩れてしまう。
精霊とは、自然その物だ。
何一つ欠けては行けない大切な物ではあるし、どれか一つが不自然に大きくなってもダメだ。
世界の中に存在する自然の調和を基軸とし……バランス良く存在する事で、初めて世界の自然は均衡を保たれる。
一見すると、ただあるだけの存在に見えるが……実は複雑かつ緻密なバランス調整の上に自然の調和は成り立っているのだ。
少なくとも、精霊と言う概念が当たり前の様に存在している……この世界では。
だから……そう、だから。
精霊の世界を……今あるこの世界の均衡その物を破壊する事になるだろうカワ子と言う存在を……私は見過ごす訳には行かない!
世界を束ねる多くの冒険者の代表として……そして、人間として!
『私は、お前を倒すっ!』
気合いを入れ、大きく叫んだ。
同時に補助スキルを再発動させる。
発動中は身体に物凄い負荷が生じる為、細かく補助スキルをオン・オフしているからだ。
超龍の呼吸法レベル2!
ドンッッッッ!
発動と同時に、私の能力が急上昇し、大量のエナジーが爆発的に発生する。
上昇率が余りにも高過ぎる為、身体からこぼれたエナジーが旋風を巻き起こし、周囲に衝撃波の様な物を吐き出した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!
そして、急激に増えた私のエナジーと大地のエナジーが共鳴する事で、周囲に地鳴りが発生する。
もう、最近は良くある事の様に感じて来るが……一般的に言うのなら、やっぱり超自然現象の類いに値するんだろうなぁ……とか、他人事の様に思う。
『やるなぁ……人間。よもや、ここまでとは思わなかったぞ?』
現状での最強状態と述べても過言ではない私を見て、カワ子は好戦的な笑みをニヤリと浮かべて来た。
そこには、一切の焦りも戸惑いもない。
あるのは、己に対する自信のみだ。
『良いだろう……遊んでやる』
答え、カワ子は右手を上に上げてから、手のひらを広げた。
同時に巨大な矛の様な物が出現し、右手で握って見せる。
大きさ的には、小柄な少女程度の体躯だったカワ子よりも大きな矛だった。
見た感じは金属の様に固い物質で出来ている様にも見える矛だが、良く見るとそれらが液状の何かである事が分かる。
水の精霊王でもあるミズホさんが使っていた巨大槍と同じ要領で出来た矛なのかも知れない。
どちらにせよ、本人よりも長く大きな矛を……しかし、右手で軽々と握りしめていたカワ子は、
『せめて、元・水の精霊王よりは、この私を楽しませてくれよ? あはははっっ!』
何処かサディスティックな笑みを満面に浮かべた状態で甲高く笑い、
ブンッッッッ!
激しく一振り。
カワ子が矛を大きく振りきった直後、剣圧の様な衝撃波が舞い上がり、超高速で私の元へとやって来る。
……なるほど。
「舐められた物だな」
衝撃波が眼前に飛んで来て間もなく、私は右手で振り払う形で手を動かした。
ドンッッ!
振り払った拳に衝撃波が当たったと同時に、衝撃波はベクトルを変える様にしてねじ曲がり、方向を変えて虚空の彼方へと消えて行った。
『やはり、水の精霊王よりかは強いと見た……ふふ……ふふふっ! 素晴らしいぞ、人間っ!? その力……私の駒になる資格が十分あるわっ!』
狂喜にも近い勢いで狂った笑みを浮かべて答えるカワ子。
きっと、催眠魔法を受けていたミズホさんと同様、私にも同じ魔法を施すつもりでいるのだろう。
故に、カワ子は喜ぶのだ。
私が強ければ強いだけ、自分の駒になった時の価値が高くなるからだ。
もちろん、やつの駒になるなんて御免だ!
シュンッッッ!
直後、私が攻撃を仕掛ける。
いつまでも防御に徹するつもりなど、最初からなかったからなっ!
カワ子との間合いを一気に縮めた私は、そのままダイレクトにカワ子の右頬へと鉄拳を振り抜こうとした。
ガキィィンッッ!
甲高い金属音が谺する。
カワ子の持つ矛が私の拳をガードした瞬間に出た衝撃音だ。
……?
見た感じは水なのに、どうしてこんな音がするんだろう?
ふと、妙な疑念が胸の中で生じたが、今はそんな事を考えていられるだけの余裕などない。
右拳の一撃をガードされた私は、再び左の拳を繰り出し、
ガインッッ!
再び矛によってガードされた。
やっぱり鋼鉄の様な音を出していた。
どう言う仕組みなのかは知らないが、水と言うより金属と考えた方が良さそうだ。
更に足を振り上げ、鳩尾めがけて蹴りを入れたが……これまたアッサリとカワ子にガードされてしまう。
……くっ!
予想以上に器用な動きをして来るなぁ……その矛!




