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水の精霊達の逆襲【25】

 見る限り、周囲には魔狼しか居ない。

 そこを考慮すると、獣臭い大猪は合流する事はなかったのか。


 まぁ、山神様を保護するのは魔狼達の仕事だったのかも知れないし……よそ者の大猪が来るのは流れ的にも筋違いだったのかも知れないな。


 ふと、そんな事を考えつつも周囲を軽く見渡している中、サンシタが再び声を掛けて来た。


『所で……言うだけ野暮かも知れないが、お前はここまで何をしに来たんだ?』


『それは愚問だな、サンシタ? お前が言う通り、野暮な話はしなくも良いと思うぞ?』


『そうか……』


 私の言葉にサンシタは短く相づちを打ってから、


『だから! 俺の名前はザンジダだと何回言えば分かるんだっ!?』


 いきり立った声音を激しく飛ばして来た。

 もう、面倒なヤツだな!

 

『お前の名前なんぞ、今の緊急事態を考えれば些末な事だろっ!?』 


 私は口早にまくし立てる。


 ……そう。

 口早く怒鳴りを入れる事で、盛大に誤魔化して見せたのだ。


 それはともかくとして。


 実際問題、現状が緊急事態である事に変わりはない。


『……ともかく、山神様は無事か? 出来れば、居場所だけでも教えて貰いたい所なんだが?』


 気を取り直す形で私はサンシタへと尋ねてみせる。

 すると、周囲の魔狼から敵意めいた空気がやって来る。


 ……うむ。


 瞬間移動して来たからと言うのもあるんだろうが……やっぱり周囲の連中にとっての私は、不審者の域を越えないのだろう。


 一応、サンシタが私達の事をフォローしてくれているが……周囲に居る全ての魔狼を制止させる程の発言力はなかった。


 まぁ、サンシタだし。


 …………。


 いや、そこは良しとして。

 

 サンシタの発言力が名前の通りであったが故であったのかと言うのなら……きっと、半分は違うと思う。

 もう半分は額面通りに三下の発言だったから無視されたのかも知れないが、現状の魔狼達にとって山神様の居場所を聞き出す行動その物が、一種の地雷だったんじゃないか?……と、思うんだ。

 

 逆に言えば、それだけ殺気立っていると言うか……必死なんだな。


 ここは、群れの連中を刺激しない方が得策かも知れない。


『山神様はもちろん無事だ。場所に関しては……本当は案内したい所ではあるんだが、コイツらが……なぁ?』


『大丈夫だ。何となくそんな気がしたしな? 大体の場所だけでも教えてくれたら、それ以上の事は望まないさ』


『すまんな……』


 サンシタは頭を垂れて謝って来た。

 普段から、地味に反抗的なヤツだと思っていたが、今回に限って言うのなら、ずいぶんと物腰が柔らかになっている気がするな?


 ヤツの心情に、どんな変化があったのかなど知らないが、これはこれで良い傾向と言える。

 私としても、無駄にコイツらといがみ合うつもりはないからな?

 むしろ、仲間としてこの場に立っている。

 現状では、まだ仲間として信じて貰えてはいない模様だが……そこに関しては、今後の行動で信頼を勝ち取る事が出来るだろう。

 口だけではなく、行動を伴う事で信頼は勝ち取る事が出来ると私も思っているから、連中の態度も理解出来るし、そこを否定するつもりもないんだ。


 故に、次に私がやらなければ行けない事は、この魔狼達へと信頼の置ける存在である事を示す事だと思っている。

 

 山神様に会うのは、それからでも遅くはない筈だ。


 ……と、こんな事を胸中で考える私が居た時だった。


「リダ様……来ますよ」


 近くに居たバアルが、神妙な顔付きと声音で私へと答えて来た。

 直後、バアルの言っていた意味を知る。


 ぞくり……と、背筋が凍ってしまいそうな……そんな、鋭いエナジーが猛烈なスピードでこちらに近付いて来るのが分かったからだ。


 ……ん?


 ……いや、待て?


 これは……っ!?


『みんな、飛べっっ!?』


 私は周囲の魔狼達へと叫んだ!


 私達の周囲が濁流の様な鉄砲水で充満したのは、そこから間もなくの事になる。


 ……やられた。

 まさか、いきなりこんな不意打ちを突いて来るとは思わなかった!


 咄嗟に上空へと飛んだ私。

 突発的にやって来た鉄砲水から、間一髪で逃れた私であったが……。


「……くっ……!」


 空中から濁流に飲まれて行く魔狼達を見ながら、私の顔がクシャリと歪んだ。


 一応、私の掛け声を聞き、咄嗟に飛んだ魔狼もいた模様ではあったが……その数は一握りだ。

 大半の魔狼は、ごうごうと激しい水音を轟かせている濁流に流されて行くのが分かった。


 私がもう少し早く気付けていれば……。


 無意識に唇を噛み締める私がいる中……一瞬で濁流を産み出したのだろう張本人が、ゆっくりと私達の前にやって来た。


 全身が液体で出来ているんじゃないか?……って位、水の様な物で身体全体を覆っていた、長身の女性が。


 まるで彫像の様な美しさを持つ顔は……醜悪な笑みを無造作に浮かべる、獣の様な微笑みを作り出していた。

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