水の精霊達の逆襲【24】
……ったく! ここまで良い雰囲気と言うか、流れ的に少しシリアスな展開が続いていたと言うのに、お前のせいで台無しだ!
実際問題、そこまでシリアスではなかったかも知れないが、哲学的な物を出していたり……いよいよ、クライマックスに向けて颯爽と戦地に乗り出すぞ! って感じの空気が出来上がっていたから、私的には爆破も辞さない心情で一杯だった。
しかし、ここでバアルを爆破してしまった日には、またもや治療魔法を発動しなければ行けなくなるし……色々と面倒だったので見なかった事にしておいた。
「良し、それじゃあ行こうか?」
私は至って穏やかに……平常心を装いながらもバアルに答えた。
内心は地味にフラストレーションが溜まっていたんだがなっ!?
「そうですね。分かりました……では行きましょうか」
答えたバアルは、
「リダちゃんもそれで良いよね~? 大丈夫! 今度は自分がちゃ~んと守ってあげまちゅからね~?」
右手に握っている、私風味の人形へとだらしない笑みでそうと付け加えていた。
私の右手が、無意識にプルプル震えていた。
本当、それ……マジでやめてくんないかなっ!?
背筋に毛虫のような寒気と苦闘を演じつつ、心の中の葛藤を強いられる羽目となった私……くぅっ! い、今は耐えるんだ、私ぃぃぃっ!
こうして、私は不毛な葛藤を抱きつつもバアルの空間転移によって旅立った。
フッ……と視界が変化し、次の瞬間には異なる場所が目の中に映される。
本当、瞬間移動って便利だよな。
到着した先にいたのは、魔狼達がワラワラと群がっている群れのど真ん中であった。
……うん。
最初から分かってて、魔狼達の群れへと瞬間移動して来た訳なんだけど……それでもインパクトが強いな。
『なっ!? 貴様! 何処からやって来たっ!?』
直後、私の間近にいた魔狼が、降って湧いた勢いで現れた私とバアルの二人に対して、あからさまな敵意のある声を放って来た。
連中も殺気立っているからな?
見た事もない人間が、いきなり瞬間移動して来れば、当然の様に警戒をして来るに決まっている。
『ああ、すまんな? 私達は怪しい者じゃない』
殺気の塊染みたオーラを見せている魔狼達に、私は友好的な笑みを作ってから言う。
『は? バカなのか? そこまで怪しい態度を取っている癖に、怪しくないと口で言うだけで信じられるかよっ!?』
やばい……ごもっとも過ぎて、私も返答に困る。
いよいよ、私とバアルに襲い掛かる勢いをみせ、剣呑な空気を作りながらも魔狼達が周囲を取り囲んで来た。
『……待て。その者達は、我々の敵ではない!』
直後、私達を取り囲む魔狼達へと制止を呼び掛ける形で声がやって来た。
最初は、山神様がわざわざやって来たのかな?……と思っていたのだが、その先にいたのは私の呪いで体毛を黒くしていた魔狼。
ああ、あれか?
川の精霊達を襲う目的で来たは良いけど、私に爆破された魔狼か?
名前は知らないけど、体毛が黒いから間違いはないだろう。
『何だよザンジダ? お前、人間が怖くなったのか?』
直後、私達を取り囲んでいた内の一匹が、黒い魔狼へと言っていた。
取り敢えず、名前っぽいのも言ってたな?
えぇと?……確か、
『すまん、サンシタ! 助かったよ!』
私は笑みでサンシタへと答えた。
『誰が三下だっ!? 俺の名前はザンジダだ! マジでバカな事言うと、ここらの連中の誤解をそのままにして置くからなっ!?』
すると、サンシタはやおら怒気のこもった声音を私に飛ばして来た。
別にサンシタだってザンジダだって、そこまで変わらないじゃないか。
私は名前を覚えるのが苦手なんだから、似ている様な単語の方が覚えやすいんだよ。
『分かった、すまないサンシタ。それで、お前は群れに戻っていたのか?』
『いや、間違いなく分かってないよな? なるほど、分からん! 的な頷き方をしてたよな? 俺の名前をもう一回言ってみろ? その結果次第で……ギャワンッ! き、貴様ぁっ! 汚いぞぉっ! そ、その邪悪な手を退けろ……あ、いや、退けて下さい! 本当、名前なんて何でも良いんでっ!』
すこぶる横柄な口を利いて来たサンシタがいたので、軽く右手を構えてやると、手のひらをひっくり返したかの様な態度を取った。
やっぱりお前はサンシタで良いよ。
だって、態度が凄い卑屈だもの。
『分かれば良いんだ……それで? お前は山神様の危機を知って群れと合流していたりするのか?』
『ここに居る時点で気付くだろう?……つまりそう言う事だ』
なるほど……と、私は納得した。
地味に偉そうな口調が復活していたりはするが、ワンコの知力しかない魔狼なので、そこら辺は多目に見てやろうと思う。




