水の精霊達の逆襲【23】
その上で行くと……今の私に生まれている感情も又、欲望の一つでもある。
山神様を救い……この山に住む色々な生き物達と仲良くしたいと言う欲だ。
友愛の願望と言い換える事が出来るかもしれないが、願望も又……突き止めば欲望の一つなのだ。
そう言う意味で表現するのなら、私ほど貪欲で強欲な人間はいない。
世界の全ての存在と仲良くしたいと思っているんだからな?
「人は人でいる以上、欲は捨てられない……だが、それでも人間は人間らしく生きようとする……他の生き物からすれば、実に愚かであったとしても尚……足掻き、苦しみながらも必死で生きようとする。それもまた、人間らしさなのさ」
「人間らしさ……ですか……?」
私の言葉に、セツナさんは分かった様な分からない様な? なんとも複雑な顔になって返答する。
まぁ……ちょっと哲学的と言うか、妙に話のベクトルが折れ曲がってしまった事も事実だから、ここは適当に相づちを打ってくれれば嬉しいかな。
「ま、私は人間を無理に理解して欲しくて言った訳じゃない。実際にセツナさんが言った通り、人間は愚かで浅はかで……欲の皮が突っ張った人間もいるし、それもまた人間らしさでもあり……人間の罪でもあるのかも知れないが……愚か者なりに頑張って生きてるって事だ。浅はかであっても、無い知恵絞って必死に生きているって事だ。それら全てが人間らしさ……ってヤツなのさ?」
「そうですか……人間って、奥深い生き物なのですね」
セツナさんはウンウンと頷いていた。
きっと、あんまり分かっている様には見えなかったけど、分かってくれた事にして置いた。
……と、こんな曖昧な解釈をしてしまえるのも、人間らしさ……なのかも知れない。
話を戻そう。
セツナさんが難しい顔になってウンウンと頷いている中、メイスとルインの二人が私へと声を掛けて来た。
「大丈夫! リダさん! あんたならやれるぜ! この俺が保証する」
あんまり頼りにならない保証だな……。
ふと、そんな事を思う私がいたけど口には出さなかった。
メイスなりの激励を込めた台詞だったに違いないからだ。
程なくして、メイスの隣にいたルインもニコリと笑みを作りながらも、私に声を掛けて来る。
「リダさん……いいえ、リダ会長。あなたはやっぱり冒険者の鏡です。冒険者協会の会長がどんな人なのか?……こんな事、今まで考えもしなかっけど、今考えさせられました。やっぱり世界冒険者協会の会長は、人としても素晴らしい人なんだな……って」
答え、ルインは快活な笑みを満面に作った。
何とも照れ臭い気持ちにさせてくれる台詞だ。
私を赤面させて嬉しいのだろうか?
「別にルインが言う程、立派な人間でもなければ、立派な会長でもないさ? 協会の事については副会長に任せきりだしな?」
実際、今は会長の癖に学生をしております……はい。
しかも、下手すると卒業するまで学生してるかもです……はい。
この調子だと、いつ会長の任を解かれるか分かった物じゃないな。
未だに不信任案の様な物が、協会内に浮上して来ない事が奇跡だとさえ思う。
「他の誰がどう思おうと、私にとっては立派な人ですリダ会長。これからも素敵なあなたであって下さいね」
微笑みつつ、ルインは右手を私に差し出す。
同時に、私も右手を出し、彼女を軽く握手を交わした。
……何だかんだあったけど、私にとっての大きな副産物はルインやメイスだったと思う。
これから早々遠くない未来にやって来るだろう、道化師の脅威に立ち向かわなければならないのだから。
その脅威がやって来る前に……私は、出来るだけ多くの味方を……仲間を手にしなければならない。
この世界は私達の物だ。
みんなが切磋琢磨して生きる為のフィールドだ。
決して……道化師の暇潰しをする為のオモチャなんかじゃ……ない!
より良い明日を造る為には、今日をより良く生きるしかない。
その為にも……今を全力で行き抜いてやろうじゃないか!
「じゃあ、みんな! ここは任せたぞ!」
握手を交わしたルインの手から緩やかに自分の手を離した私は、その手を大きく振り……後ろに居るバアルへと向き直った。
果たして。
「やっぱり凛々しいリダ様は綺麗で格好良いね~? リダちゃんもそう思うだろう?」
正面へと身体を向けた先には……鼻の下を如意棒の様に伸ばしまくったバアルが、陽気な顔してお人形さんと語り合っていた。
爆破してやりたい衝動が、これでもかって程に強く私の胸中を圧迫していた!
本当! ここで爆破出来たら、どんなに私の精神衛生上……楽だったかっ!?




