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水の精霊達の逆襲【22】




      ○◎●◎○




 数分後。


 私は、床で真っ黒焦げになって倒れているバアルを治療魔法リカバリィを使って回復させ、魔狼フェンリルの群れがいるだろうエリアまで送って貰う事にした。

 

 現状、セツナさんの案内で滑空魔法グリードを使って飛んで行くと言う方法でも構わなかったのだが……一応、建前ながらも試験の最中さいちゅうであった為、なるべく禁止事項に抵触する行動を避けた。


 確か、禁止事項には『飛行魔法は不可』とあったが『空間転移魔法を使ってはならない』と言う項目はなかった。


 人間は絶対に使えない禁忌タブーの魔法なのだから、禁止も何もあった物ではないんだろうが。


 しかし、禁止事項に空間転移魔法の禁止がないのなら、使っても差し支えはないだろう。

 他の禁止事項に、試験者と相棒を抜かす第三者の力を意図的に借りてはならない……とか言うルールがあった様な気がしたけど……きっと気のせいだ。


 ともかく、今はそんな些細な事を言っている場合じゃない!……って事に、させて欲しい!


 閑話休題それはさておき


 空間転移魔法は、近隣エリアに一度でも行った事がある場合であれば、後は到達座標が分かる物さえあれば、問題なく魔法を発動させる事が可能らしい。

 要は、この近辺に来た事があるのであれば、後は地図で印でも付けてくれれば、ほとんどの誤差もなく目的地点へと瞬間移動する事が可能だと言う訳だ。


 この関係もあり、セツナさんは社に残る事となった。

 最初は魔狼の群れがいるだろう場所を案内する為に、私やバアルの二人と同行するつもりでいたのだが……案内をするまでもなく、地図を見せるだけで用が足りてしまう事実を知った為、社を守りたい気持ちの方が強くなった模様だ。


 縄で拘束しているとは言え、ここには危険な存在でもある川の族長精霊が居る。

 一応、捕縛している縄は、私の束縛魔法が施された特殊な縄ではあったが……それでもやはり、セツナさんとしては不安だったのだろう。


 気持ちは分からなくもない。


 精霊語だと、自己紹介しかしない残念な男と、排泄物で友愛を語るこれまた残念な語彙力しかない二人を残した状態で、この場を離れるのは嫌だったのだろう。

 もちろん、安全弁としてフラウも残る事にはなっているのだが……正直、フラウの精霊語も余り当てには出来ない。


 何より、海千山千な族長精霊は、芋虫よりも人間を嫌う人間不信の教科書みたいな存在だ。

 人間を騙す事に一切の良心を痛める事はないだろう。

 

 そうなれば、万が一の事がある。

 大丈夫だと思う気持ちや……フラウ達三人を信用したい気持ちもあるけれど……やっぱり心配の気持ちの方が大きいのだ。


 結果、私とバアルの二人で魔狼の群れが隠れているのだろう場所へと空間転移する事で、話が纏まって行くのだった。


「……じゃあ、行って来る」


 治療魔法リカバリィによって復活したバアルを尻目に、私は周囲のみんなへと軽く手を振った。


「リダだから、百パー大丈夫だとは思うけど、頑張って!」


 程なくして、フラウが笑みを作ってから手を振り返して来た。

 何事も百パーセントと言う事はないとは思うけど……フラウなりに抱く、最大限の信頼を口にしているのだろう。

 この信頼に応える為にも……頑張らないとな!


「本当……何から何まで、助けて頂き……感謝の言葉しかありません」


 少し間を置いてから、セツナさんが畏まった声音で私へと答え……そして頭を下げて来た。

 私は苦笑いしか出来なかった。


「頭を上げてくれよセツナさん。私はこの山に住む者達が好きだ。大好きだ! 互いに協力出来る仲間になれるって信じてる。だから、これはセツナさんの為だけにやってる訳じゃない。私の為でもあるんだよ」


 そう答えてから、私は穏和に笑った。


「リダさん……」


 私の言葉を耳にしたセツナさんは、無意識に顔をくしゃりと歪め……そして瞳から涙を流した。


「私は……恥ずかしいです。人間とは自分の事だけしか考えない浅はかな生き物であると思い込んでおりました……常に欲望を胸に抱き、私利私欲の為にしか行動しない計算高い愚か者だと見下しておりました……本当に恥ずかしい事だったと、今知りました」


「良いんだよ……実際さ? そう言う人間だって本当にいるし? 欲を捨てきれない人間なんて存在しないと言うのも事実だよ。もちろん……私もそんな人間の一人さ」


「それは違います! あなたは……リダさんは、本当に素晴らしい人間です。私の目にあった曇りを大きく取り払ってくれました!」


 私の言葉に、セツナさんは真顔で反発して来た。

 きっと、それが本心であったのかも知れない。


 ただ……人間は、確かに欲を持たないと生きては行けない生物である事だけは間違いないのさ。


 欲は人間の根本だ。

 これが無くなったら、人間は無気力になり……やがて衰弱死するだろう。


 なぜか?

 生きたいと言う欲がなくなるからだ。


 欲にも色々と種類があるし……欲望と聞けば、悪いイメージしかないかも知れないけど……実は、人間にとっては必須の欲もある。


 当然、良い意味での欲だってあるぞ?


 一例を挙げてみようか。

 例えば? ボランティアをしている人だって、沢山の人から喜んで貰えるからこそ、その笑顔が励みになっている訳だろう?

 みんなの笑顔が見たいと言う『欲』があるからこそ、出来る訳だ。


 つまり、欲と言うのは決して悪い事ばかりに当てはまる事ではないと言う事だな。

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