水の精霊達の逆襲【21】
この社が、山神様の半身を意味する建物であるのなら、この社も同時進行で防衛しないと行けない……と言う事だ。
セツナさんの話を聞く限りであるのなら、どちらか片方が滅んだ所で、二分化した魂が片方に結合して元の一つに戻るだけ……と言う事になっている。
まぁ、それなら片方だけを守れば良いんじゃないか?……って話になりそうだが、少し待って欲しい。
片方が滅ぼされると言う事は、完全滅亡に王手が掛かった事になる。
元々は、どちらか片方が滅んでも、片方が生きてさえいれば復活する事が可能……と言う、保険の様な役割を持っていたんじゃないかと思う。
だからして、最悪の事態を想定するのならば、どちらか片方は死んでしまった時の事を考える必要はあるだろう。
だが、今はその『最悪の事態』までには至らない。
そして、私は言いたい。
片方が死んでしまうと言う状態は、これ以上ないまでの緊急事態ではないのだろうか?
簡素に言うのなら、自分達からわざわざ最悪の事態にする段階ではないと、私は思う訳だ。
だが、そうなると……だ。
「うぅむぅ……」
私は両腕を組みつつ、悩んでしまった。
「どうしたの、リダ? そんな……トイレに行きたそうな顔なんかして……?」
悩む私がいた所で、フラウがふざけた台詞を口にして来た。
人が真剣に悩んでいると言うのに、どうしてあちゃらかな台詞を臆面も無く言えるんだろうな? この胸無しは?
「別にトイレに行きたい訳じゃない……てか、無いのは胸だけにして置け? これでオツムまで無くしたら、本当の意味で全てが無い人間になってしまうからな?」
「はぁっ!? 胸あるしっ!? リダは何処に目を付けてるの? それとトイレ行きたいなら、我慢しないでセツナさんにトイレの場所を教えて貰いなさいよ!」
「だから! 誰がトイレを我慢してると言った!? 私が考えているのは今後の防衛方針だ!」
「へ? 防衛方針?」
厳めしい声音でがなり立てた私に、フラウはちょっとだけポカンとなってしまった。
そして言うのだ。
「リダなら、なんでもかんでも爆破で解決しちゃうんじゃないの?」
私はどんな爆発魔なんだよっ!?
しかも本気で言ってるから、余計に腹立たしいぃっ!
「ふざけんなっ! 私だってちゃんと頭を使う所では頭を使ってるんだ! いつでも何処でもボンボン爆発してる訳じゃないんだからなっ!?」
「そうだったっけ?……そうかぁ……意外だったなぁ……って、待って! その手は何っ!? やっぱり爆破で解決しようとしてないっ!? わ、私はそんなリダの自己中心的な横暴になんか……屈するんだからっ!」
屈するのかいぃぃっ!
堂々とない胸を張ったフラウは、果敢な笑みを好戦的に浮かべつつ……態度と真逆の台詞を飄々と叫んでいた。
そこから何回も頭を下げて来る。
本当に何がしたいのか分からない。
「ともかく、ここからは二手に別れるぞ? 片方はこの社を守る組……もう片方は、魔狼になっている山神様を守る組だ。片方は倒されても山神様が完全に滅する事はないと言うが、片方が死ぬ様な最悪の事態にはしたくはない。ここは両方の山神様を救うつもりで守り抜くんだ!」
私はいつになく気合いを入れ、強めの語気をフラウへ飛ばした。
この言葉を近くで聞いていたのか? 程なくしてルインが私達へと口を開く。
「じゃあ、こちらの防衛は私とメイスが担当させて頂きます」
ルインは答えてから爽やかに微笑み、グッジョブをして来た。
そこからメイスも笑みを作ってからルインの言葉を補助する形で言ってくる。
「こっちの方が楽そうだからな!」
ああ、そうかよっっ!
せめて、もう少し言葉を選べよっ!
「ちょっ!? ダメだろメイス! 本当の事を言っちゃっ!?」
そう言うルインもダメな事を言ってるよっ!?
メイスのダメ台詞にダメな言葉を上塗りしちゃってるよっ!?
……はぁ。
本当に、コイツに任せても大丈夫なんだろううか?
「仕方ないなぁ……私もこっちに残る事にするよ」
ルインとメイスの二人を見て、フラウは呆れ半分の声音になって、そうと私に答えて来た。
「まさか、お前もこっちの方が楽そうだから……なんて理由じゃないだろうな?」
ジト目になって言う私に、フラウは心外を露にして返答した。
「こんな二人に、山神様の半身を託しても安心出来ると思ってるの?」
やばい……全く反論出来ないや。
「そうだな……うん、今回はマジで頼む」
私は即行で頷いた。
直後、ルインとメイスの二人が超絶不本意な顔して私とフラウの二人へと非難がましい台詞をギャーギャーと捲し立てて来たが……もちろん軽く聞き流すだけに留まった。




