水の精霊達の逆襲【18】
「まず、一つ言おうか……この件に関しては、様々な偶然が数奇な運命を辿った末に色々と奇跡的な合致が発生した顛末に生まれた悲劇なんだ……販売元だって、まさかこんな悲劇が発生する事になろうとは予測も出来なかったと思うんだよ? うん!」
「言いたい事はそれだけですか? リダさんの言う数奇な運命のせいで、こっちは大損害を被る羽目になっているのですが?」
「いやぁ……あはははっ! 申し訳ないねぇ! あははははっ!」
「笑ってごまかしても無駄ですよ?」
……くそ、ダメか。
私は絶望した。
この巫女さんは、なんだかんだで人間との融和とか協和的な物を好意的には受け止めていない。
一応、カワ子の行ったイタズラ書きを消した事で、一定の友好を得る事は出来たのだが……その程度の事柄で、今回の事件を天秤に掛けられる訳もなく……まぁ、つまるに……困った。
し、仕方ない!
バンッッ!
私は両手を床に叩きつけ、超が付くまでに真剣な顔をセツナさんにみせた。
「……なっ!? いきなり何をする気ですか? 今度は私を脅そうとでもっ!?」
完全に不信の目で私を睨むセツナさんを前に……私は即行で、
「ごめんなさい、ごめんなさい! ちゃんと尻拭いは私がやるから勘弁して下さいぃぃっっ!」
何回も土下座をかました。
……くそぅ……。
元を正せば、そこで真っ黒焦げになったまま失神してるクソ悪魔とその部下達がやった失態なのに、どうして私が床に額を擦り付ける羽目になるんだ……?
そうと、バアルやアシュアへの殺意を胸中に募らせつつ、しっかりと頭を下げ続けた私。
しばらくして。
「……はぁ。分かりました。さっきの画像転送魔法で見た一部始終の会話から考えても、リダさんは知らなかったみたいですし……尻拭いと言うか、今回の一件で私達を助ける意思はある模様ですし……それで水に流そうかと思います」
嘆息混じりになりつつも、妥協する様な台詞を口にするセツナさんがいた。
「ほ、本当にっ!?」
セツナさんの言葉を耳にして、私は床に擦り付けていた額をババッ! っと正面に向けてから叫んだ。
「私の正直な部分をさらけ出せば、やっぱり許しがたい部分も点在してはいます……いますが、現状でリダさんの助けが必要な事もまた必定……」
安堵めいた表情の私を前にして、セツナさんは淡々と口を動かして行ったが、ここまで述べるとやんわりとした柔らかな微笑みを見せ、
「それに、やっぱりリダさんは、何処か憎めないと言うか……あなたの娘であるアリンちゃんもそうなのですが、透き通った瞳をしていて……結局はお人好し過ぎて、嫌いにはなれないんですよ……ちょっと不本意ですけどね?」
答えてから、おどける様な笑みに変わった。
……良かった。
セツナさんが、人を見る目のある人で!
よぉぉぉぉしっ!
これで、私達の失態を挽回さえすれば、どうにか丸く収まるお膳立ては整った!
後は山神様さえしっかり無事に救出して、この一件を終わらせれば全てが円満に解決する!
……と、言う事にして置こうっ!
「ちなみに、山神様が死んだら……分かっていますよね?」
私の中で色々と話がまとまった直後、セツナさんが不穏な笑みを冷たく見せていた気がしたけど、見なかった事にして置いた。
でも、返事だけはしておかないと後が怖いので、
「大丈夫! 山神様は、私の命に代えても救出するから!」
私なりの覚悟を堂々と断言してみせた。
……でも、怖いから視線は合わせなかった。
「本当ですね? その言葉? 本当に『命に代えても』守って下さいね?」
ひぃぃぃぃっっっ!
ヤバイよこの精霊……色々とヤバイ感じになってるよっ!?
この調子だと、山神様が死んだら下手な悪霊より怖い状態で私を本気で殺しに掛かるよっ!
「も、ももも……もちろんですますはいっっ!」
私は少しだけ焦りつつも、そうとセツナさんに相づちを打った。
ちょこっとだけ焦り過ぎて、呂律が上手く回らなかったけど……気持ちは伝わったと思う。
……多分っっ!
「何をそこまで焦っているんですか? 私は山神様が無事でさえいれば何もしませんよ?……そう、何もね?」
いやいやいやっ!
ちょっ……マジ怖いんですがっ!?
不意に顔が青くなり、目尻から涙が出て来そうな状態になりつつある私がいた。
なんで、こんな所で妙なホラー体験なんぞをする羽目になっているんだ? 私はっ!
それもこれも、ぜぇぇぇんぶ大悪魔達が悪い!
貴様等、後で覚えていろよっ!
私は再び、アシュアとバアルの二人を爆破してやろうと心に決めた。
その直後だった。
「リダ! 山神様……だっけ? ともかく、この神社の主らしい人の居場所を、そこの精霊から聞き出せたよ!」
フラウから朗報が転がって来た。
ナイスだフラウ!




