水の精霊達の逆襲【17】
『実際に、この企画は大当たりしまして! 魔王にナールDXのお陰で試験を合格しました! とか、大事な試合で上手く行きました! と言う様な反響が上がり、売れ行きが急上昇しました! そこで、好評を頂いた第二段としまして……これまで百個に一個の割合で当たりを入れたのとは別に、一万個に一つだけ本物の魔王と変わらないクオリティーを持つ製品を混ぜてみました! それが超大当たりの魔王にナールDXです!』
アシュアは鼻息を荒くして右拳をギュッ! っと握り締めながら叫んでいた。
他方の私は、アシュアのテンションに反比例するかの様に駄々下がる。
本当に……なんて代物を開発してるんだよ……お前の所わっっ!
『一万個に一つの割合だったので、その幸運を掴んだお客様がどの様な方なのかは存じませんが? この超大当たりを引いた人に限って言うのなら、本当に魔王クラスの能力が得られると言う優れもの! これで魔王にナールDXの宣伝効果もバッチリ! これは、もうぅ……買うっきゃないですよねっ!?』
そんな物騒な代物、1980マールなんぞで売るんじゃねぇぇぇぇっ!
「良し分かった……取り敢えず、トウキの監理局に私が密告するか、私の超炎熱爆破魔法をお前が喰らうか選べ」
『いやいやいやっ! リダ様……そんな、ご冗談を?』
真剣な顔になって答えた私の言葉に、アシュアは口元をヒクヒクさせながらも声を返した。
「この顔が冗談を言ってる様に見えるか? 見えるのなら、明日は眼科にでも行ってくる事だな?……ったく! お前らが作った途方もなく面倒な代物のせいて、こっちは大迷惑を通り越して大事件だ! 今後は、当たりを入れるにしても、しっかりと売る相手の身辺調査を行ってから売れっ! この、天然ボケ悪魔がぁっ!」
私は、アシュアに向かってこれ以上ない怒号を浴びせた後、こっちで起こっている事情を説明し……その上で土下座させてやった。
◎○●○◎
全く……ロクな事をしない!
悪魔にしては、割りと真っ当と言うか……最初にあった目の付け所は悪くはなかったのだが、その後がダメダメだった。
やっぱり、悪魔が商売を始めると、そこかしこに悪徳商法染みた物になってしまうのだろうか?
何とも素朴な疑問が、心の中から噴出する私ではあったが……反面、安堵した部分もある。
結局の所、大悪魔達が全力で作り出した魔導器が原因であった事だ。
これはこれでどうかと思うし……曲がりなりにも身内でもあるので、今後はもう少し考えろと言うつもりではあるのだが。
しかしながら、これで一つの予測は消え去った。
道化師の存在だ。
基本的にはちゃっちいイタズラ程度しか出来ない微力な川の精霊が……よりによって水の精霊王すら打ち負かすまでの驚異的な能力を手にしてたが故に……これは伝承の道化師が、己の壮大な暇潰しの一貫として一石を投じていたのではないか? と言う予測だ。
やってる事が凄まじいので、道化師が関与していてもおかしくはない。
むしろ、関与している方が自然だと思えるレベルだった。
所が、どうやら今回の犯人は別にいたらしく……挙げ句、バアルとアシュアの二人が主犯とか言う……ここら近辺に住んでいる精霊の方々に向けて、地面に額を擦り付ける勢いで謝らないと行けない大惨事である事実が判明していた。
…………。
ど、どうしよ?
これ、バレたら私も全力で土下座しないと行けないレベルじゃね?
……う、うむ。
と、取り敢えず……バレない様にしないと!
……思った私は、近くにいたセツナさんへと目線を向けた。
近くには川の族長精霊とかもいたのだが、こちらの画面を見てはいなかった。
その代わりと言うのも難だが、メイスとルイン……そして、フラウの三人が加わる形で色々と尋問をしている模様だった。
この三人からすれば、試験を半分以上台無しにされていたので、色々と問い詰めたい部分もあったのだろう。
序でに言うのなら、私も聞きたい事がまだ残っている。
そもそも、どうして族長精霊だけこの社へと乗り込んで来たのか?
その目的は何だったのか?
そして……未だ、姿が見えない山神様の行方についても、知っているのなら教えて欲しかった。
現状で一番危険なのは間違いなく山神様だ。
カワ子が魔王レベルの能力を得て……その能力を元に復讐をするのであれば、間違いなく山神様に牙を剥く事は必然でもあった。
そうなれば、山神様はカワ子によって殺される危険性だって十二分に考えられる。
現状の私達が火急を要するのは、間違いなく山神様の救出なのだ。
ここらを考慮するのであれば、川の族長精霊から山神様の居場所を問い詰める必要性が生まれる。
……だが。
現状に置ける私が最も優先しなければ行けない事は、もう一つだけある!
それは……。
「あの……リダさん? 少しばかりお話をさせて頂けません?」
セツナさんの説得だ!
近くにいたセツナさんは『世の中なんて、誰も信じられない』って感じの台詞を顔で表現しているかの様な表情で、私へと口を開いていた。




