水の精霊達の逆襲【14】
実際問題、バアルの宣言した通り……部屋は全くの無傷だった。
良いところ、バアルの寝室にあるベッドが灰塵を化した程度の事で、外壁には焦げ目一つ付いていない。
……変な所に高品質な魔法を封入させている様な気がして仕方なかった。
『貴様は……リダレンジャーかっ!?』
画面もクリアになり、アシュアが毅然とした態度で人形達に向かって叫んでいるシーンが画面の中に映っていた。
どうでも良いが、どうしてアシュアもリダレンジャーの存在を知ってるの? それ、流行ってるの?
『忌々しいリダレンジャーめ……貴様達は、ことごとく人の邪魔を……例えば、バアル様の下着を洗濯する大義名分から、その豊潤な香しさを堪能している時も、何処からとなく湧いて来ては、私に爆破魔法を発動させ……バアル様が毎朝使う歯ブラシで間接的な悪魔のベーゼを味わおうとした時も、やはり何処からともなく湧いて来ては爆破魔法を発動して……今度はこれかっ!? 毎度毎度、人の楽しみを邪魔するんじゃないわ! この胸元カントー平野!』
何だろう? 物凄い殺意が、私の思考から泉の様にわき出て来て仕方ないんだが?
余談だが、カントー平野とは……この大陸で一番の広さを持つ広大な平野部だ。
カントー帝国の大多数が、このカントー平野に位置し……よって、帝国領は他国と比べると平野部が極端に多い。
多いのだが……私の胸元とは関係ないし……つか、あれは私ではないし、リダレンジャーとか言う紛い物の戦隊だし…………でも、ムカつくから爆破してやる。
そのバチモン戦隊もろともなっ!
私の殺意が最高潮にまで上昇しつつあった最中、画面内ではアシュアとリダレンジャー達の壮絶な戦いが無駄に繰り広げられていた。
もう……この辺で良いんじゃないのか?
いい加減、展開が地味にグダグダな気がするんだけど……?
激戦の末、リダレンジャー達がアシュアをノックアウトし……軍配はリダレンジャー達に上がった。
『くぅ……忌々しい偏平胸供に負けるとは……口惜しい……』
リダレンジャー達が、勝利のポーズを元気に取って見せる中、四つん這いになって倒れていたアシュアが悔しそうに悪態を吐いていた。
偏平胸って何かな?
私の胸は、足に付いているとでも言いたいのかな?
ボチボチ、コイツにも色々と物を申してやりたい気持ちで、胸から感情が迸りそうなんだが?
「おい、偏平胸……じゃない、リダレンジャーとやらがアシュアを倒したぞ? もう良いんじゃないのか?」
「そうですね、確かに頃合いとしては十分でしょう。データもしっかりと纏まりました……が、アシュアは全く分かってないですね。偏平胸? それでは完全なるまっ平らではありませんか? リダレンジャーは偏平胸ではありません! 膨らみ掛けなだけです!」
「ほぉ? それがフォローになっていると本気で思っているのか?」
「ち、違います! それに、最初から自分はフォローで言っておりません……あの膨らみ掛けが、女性として一番の美しさを誇っていると断言したい!……そう! ちっぱいは正義! ちっぱい万歳! ちっぱいこそ至上ぉぉぉっ!」
ドォォォォォォォンッッ!
最終的にバアルが暴走して来たので、冷や水代わりに爆破してやった。
これで少しは冷静になってくれる事だろう。
しかし、少しやり過ぎてしまったので回復魔法は掛けてやる。
治療魔法!
「……はっ!? 何か凄い爆風を受けた気が……っ!?」
「気のせいだ。それより、いい加減アシュアとコンタクトを取れる様にしろ。じゃなければ爆破するぞ?」
再び意識を戻したバアルは、ハッ! っとした顔になった後、驚いた顔をしながら独りごちていた。
どうやら、爆破の勢いが強すぎて一瞬だけ記憶が飛んでしまったのかも知れない。
だが、私的に言うのなら、これ以上の茶番を見るのも嫌だったので、半ば強引にバアル目掛けて右手を向けた。
「はわっ! はい! 大丈夫です! そろそろ私もアシュアと連絡を取るつもりでいましたのでっ!」
額から冷や汗をドバドバ流しながら頷いたバアル。
最初からこうして置けば良かった。
直後、バアルは右手からマイクの様な物を出現させる。
そして、マイクを握りしめた。
何故か小指だけ立っていたけど、敢えてツッコミは入れなかった。
「あー……あー……只今、マイクのテスト中」
それ、要るのか?
『この声は……バアル様っ!?』
小指を立てながらも颯爽とマイクを握りしめるバアルの声を耳にしたアシュアは愕然とした顔になって、驚きの声を出していた。




