水の精霊達の逆襲【13】
画面の中にいたアシュアは、普段からは想像も出来ないまでに恍惚の笑みを満面に浮かべ、息を無駄に荒げた状態になっては、
『あああ! バアルさまぁぁぁ~っ!』
なんか……悶絶していた。
何してるんだ、この色ボケ悪魔は?
「どうする、バアル? これは見てはいけない物を見た気がする私がいるんだが……どうだろう?」
「……いいえリダ様。これは現時点で発覚する事で、今後の再犯防止に繋がる新発見でした。主である自分の部屋に入って来ては、人を性的欲求の捌け口に利用するとは……格式ある高位悪魔としての誇りは何処に行ったと言うのでしょう?」
バアルは不愉快極まると言うばかりに私へと非難めいた声音を撒き散らす。
私風味の謎人形相手に鼻の下を伸ばしているヤツにだけは言われたくないと思う。
しばらく、アシュアはバアルのベットに入り、クンクンと臭いを嗅いでは、世界一の幸福者チックな笑みを顔一面に浮かべているシーンが続いた。
……大悪魔って、変態しか居ないのか?
「これ、こっちからコンタクトを取る事は出来ないのか?」
「出来なくはありませんが……暫くは様子を見ようかと」
見方によっては、アシュアの公開処刑にも近い状態でもあった為、何処と無く居たたまれない気持ちで一杯になった私が、なるべく早くアシュアへと気付いて貰う手段をバアルに申し出たのだが、バアルは首を横に振った。
どうやら、何処までやるのか見て置きたいらしい。
これはこれで陰湿と言うか、陰険と言うか……うん。
そうな? コイツって、そう言えば悪魔だったよ。
悪魔の常識ではどうなのか知らないが、人間の常識ではアシュアの変態行為も覗き見をやめないバアルの行動も非常識でしかなかった。
「自分としましても、今後の対策をするに当たってのデータを搾取するにはちょうど良かった」
他人には見られなくないだろう特殊性癖を、ひょんな事から覗き見する羽目になってしまい、目をミミズにしてしまう私の隣で、バアルはいつになく真剣な眼差しで口を開いていた。
今一つ、言っている意味が分からないんだが?……と、私の頭上にハテナが生まれていた時だった。
画面の中から、小さい人形が出現する。
見る限り人形は……私か?
三頭身にデフォルメされているが、見る限りは私で……五体ばかりの数がおり、各々に五色の異なる色彩を持つ服を着ていた。
「……何だこれは?」
色々と言ってやりたいと言うか……そもそも、どうして私ソックリにする必要があるんだよと、悪態めいた台詞を口から量産させてやりたい衝動を必死でおさえながらも、苦い顔になってバアルへ聞いた。
「カイチョー戦隊・リダレンジャーです」
「そうか……後で、爆破してやろう」
「待って下さい! 彼女達は、愛狂わしくも勇敢な……戦う乙女なのです!」
「そうか……じゃあ、爆破だな」
「待って! 本当に待ちましょう! 彼女達の姿だけでも! せめて一目だけでも目に焼き付けて下さい! 確実に気持ちが変わりますからっ!」
爆破する事しか念頭になかった私へと、バアルは必死で抗議する形で激情的に声を放っていた。
そんな中……五色の異なる色をした服を身に付けた五体の人形達は、未だ恍惚の笑みで脳内のお花畑をエンジョイしていたアシュアに向かって、スゥゥ……っと右手を向けた。
その格好と言うか構え方が、完全に私だった。
「どうですか? とってもリアルでしょう?」
バアルはドヤ顔で言って来た。
言いたい事は分かるのだが、果てしなくムカつくから、その顔はやめて欲しかった。
右手を構えた五体の人形は、次の瞬間……。
特大爆破魔法!
チュドォォォォォォォンッッ!x5
上位爆破魔法を五体が同時に発動させていた。
……私の家で何をしてくれてるんだよ?
画面は一気に煙が充満し、もうもうと立ちこもる煙で一杯になっていた。
……しばらくして。
『ゴホゴホッ! このっ……曲者がぁっ!』
煙がうっすらと消えて来た所で、爆煙に噎せて咳をするアシュアがいきり立った喚き声を放っていた。
少しずつクリアになって来てはいるが……室内がどうなっているのかは、画面から見て取る事が出来ない。
これで、部屋が瓦礫の山になってたりしたら、コイツらに弁償させてやる……と、心の中で毒吐きをみせる私がいた所で、バアルがやんわりと笑みを作ってから言った。
「安心して下さい。リダ様の御自宅は超魔法すらヒビ一つ入らない特殊魔導コーティングを使用した防壁材に変えております。この程度の魔法ではビクともしませんよ」
いつの間に、そんな改築をしてるんだよ……お前は?
それと、一々ドヤ顔になって言うコイツの態度が、この上なくムカつくのだがっ!?




