水の精霊達の逆襲【11】
元来なのであれば、そのアホな行動を臆面もなく私の前でやっている時点で爆破してやっても構わないレベルではあったのだが……コイツには色々と聞きたい部分がある。
爆破してやりたい衝動をぐぐっと堪えつつ、私は変態人形マニアの前にやって来た。
「おい……バアル。ちょっと聞きたい事があるんだが?」
「ふふふ……リダちゃんは、自分にとって極上の天使……この美しい瞳、柔らかな頬……何もかもが完璧で美し過ぎるツインテールの髪質……ふふふ……」
「いや、人形はちょっと置いとけ。それと、ちょっとだけ私に似ている人形をそこまで誉めるな……相変わらず気持ち悪い事に変わりはないけど、地味に照れ臭い」
「はぁはぁ……」
「いや、何で息が荒くなる? つか、いい加減私の話を聞く気にはならないのか?」
「ああ……リダちゃん可愛いよ、リダちゃん……はぁはぁ……特に、このまっ平らな胸元のラインが絶妙過ぎてもう……はぁはぁ!……鼓動が……ときめきがぁぁぁっっ!」
ドォォォォォンッッ!
……はっ!
しまった、うっかり爆破してしまった!
声を掛けていると言うのに全く気付く様子もなく、鼻息を荒くして人形相手にけしからん目でふざけた台詞までほざいていた物だから、ついつい爆破してしまった。
……くそ、仕方ないな!
治療魔法!
爆発して真っ黒焦げ状態になっていたバアルに向けて回復魔法を発動させる私。
しばらくして、バアルは意識を回復させた。
「……じ、自分は一体?」
意識が回復した所で、軽く周囲を見渡すバアルがいたのだが、そんなのお構い無しに私はヤツの胸ぐらを掴んでから喚き声を上げた。
「おいコラ、バアル? 貴様は一体……どんなふざけた商売をやってたりするんだ?」
「へ? は? いやいや、リダ様っ!? いきなり何を言ってるんです? 申している意味がさっぱり分からないのですがっ!?」
胸ぐらを捕まれ、完全なる喧嘩腰になって喚き声を放つ私へ、バアルはあたふたと焦りながらも反論した。
ここに関しては、確かに話をはしょり過ぎた感は否めない。
きっと、コイツはさっきから私に似た人形に夢中で、族長精霊の言っていた言葉になんぞ耳を傾けてはいなかっただろうからだ。
「ベルゼブブ印の商品とかを販売しているのはお前だろっ!?」
仕方がないので、話の核心的な部分を極論として口にすると……バアルはキョトンとした顔になって首を傾げて来た。
「ベルゼブブ印の商品……ですか?」
答えたバアルは心底『なにそれ?』的な顔になっていた。
……あれ?
「なんだ? もしかして、知らなかったのか?」
「あああ! 分かった、あれだ! アシュアのヤツが、ハエ軍団の維持費を作り出すのに始めた新しい商売がありましたよ! その事なんじゃ……って、リダ様っ!? 目がマジで怖いんですけど? それと右手は止めて下さい! その右手は極悪な悪魔百人に匹敵するまでに凶悪ですよっ!? いやいや! 普通に真っ当な商売してるだけですって! ハエ軍団の人員はかなりの数ですし、いつまでもタダ飯食わして置けないから働け! って主張したアシュアの言い分も間違ってませんから!」
犯人は別にいると思っていた瞬間、アッサリと犯人である事を認めたバアルへと、私は爆破の刑を求刑してやろうと右手を向けてやったのだが、目尻に涙を浮かべて遮二無二騒ぎ立てるバアルの弁明を耳にした事で手を下ろしてみせる。
なるほど、確かに一理ある話だった。
バアルの直系軍団だけでも数百とあるハエ軍団の数は、確かに幾万とも言える軍勢だ。
その軍団が、大将であるバアルと一緒にトウキへとこぞって移住したとなれば……相応の問題が発生するだろう。
そして、バアルの言葉にあった通り……やっぱり雇用問題と言う物が発生する。
人間社会に順応するに辺り、同じ人間社会に溶け込もうとトウキの街にやって来たは良いが……何万もの軍団が人間社会で定職を見つける事は実に困難だ。
よしんば、全員が職にありつけたとしても……今度は元来働いていたトウキ民の職を奪う事になってしまう為、結果として新しい雇用問題へと発展してしまう事になるだろう。
そこで、ハエ軍団には新しい企業を立ち上げて貰い、トウキにある自由経済の中で切磋琢磨に頑張って貰う事にした。
……と、こう言うシナリオなんじゃないかと思う。
これはこれで、ああ悪くない筋道ではないか? とは思う。
確かに新しい企業を立ち上げる事で、淘汰されてしまう企業が生まれてしまう為、失業者が発生する事はあるかも知れないが……自由経済の世界と言うのは、元来そう言う物なのだ。
だから、頑張って自社を守ろうと社員は頑張るし、頑張って会社を大きくすれば、相応の報いもある。
これが自由経済のルールみたいな物でもあるし、よっぽど反則的かつ悪辣な市場参入でもない限りは、私も合理的な判断であると解釈出来る。
なので、会社を設立した事に関しては問題ない。
社員がハエってのはどうよ? って感じもするが、全ての生物が平等に暮らせる世界を目標に掲げている私だけに、そこは然したる問題ではなかった。




