水の精霊達の逆襲【9】
『人間! 貴様らは、私をおちょくっているのかっ!?』
族長精霊は、額に怒りマークを作ってがなり立てる。
確かにおかしな事を言っているのは認めるけど、ロープでがんじがらめになっている状態で、どうしてそこまで上から目線な態度を口振りでいられるのか? 私としては甚だ疑問だ。
むしろ、それだけの余裕を出せるだけの裏があるとしか思えない。
……うーむぅ。
仮に何か秘策があるのであれば、早々遠くもない内に分かる事だろう。
むしろ、少し泳がせてやろうか?
こんな事を考える中、怒り狂う族長精霊へとメイスは再び口を動かした。
『俺の名前はメイスってんだ、よろしくな!』
やっぱり自己紹介してた。
……やばい、コイツ……真性のバカだ!
「メイス! あんたはちょっと黙ってろ! どんなに頭がパーなヤツだって、三回も名前を紹介されたら流石に名前ぐらいは覚えると思うから!」
「仕方ないだろっ!? 俺、これ以外の精霊語なんざ、知らないし!」
だから黙れとルインに言われてるんだと思うぞ?
眉を捻って、本気でルインに非難されているメイスは、顔をくしゃっ! っとしてから、不本意な顔を見せていた。
『しーつれーすますた! 私達はあなた方、精霊が大好きです! 愛してます! う○こまで愛してます!』
『ぶほっっっ!』
ひた向きに低姿勢な態度で言うルインの言葉に、族長精霊が口から何かを吹き出していた。
そりゃ、そうだろう。
どんな愛情表現なんだろう? と、私だって呆れてしまう。
これは私なりの予測だが『心の底から友好的に思っています』と、ルインは言いたかったんだろうが、スペルを間違えた挙げ句、言い方と言うか……言い回しのニュアンスまで間違えてしまった為『あなたの排泄物まで愛してます!』と言う感じの意味になってしまった。
そして、当人はこの間違いを全然気付いていないのだろう。
だって、真顔で言っている物。
しかも、タチが悪い事に、
『私ハ 常に思っております。この世界が大きな大きなう○この愛で結ばれる世界であらんコートを!』
そこのニュアンスを間違えてしまうと、全ての言葉に排泄物が絡んでしまう。
なんだろうな? この残念過ぎる愛情。
お前の世界は、排泄物で愛を語るのか?
『いらんわ! そんな愛!』
私だって要らんなぁ……そんな汚れた愛情。
『どーしてですか? う○こが世界平和に繋がるコートは、あなたもご存じでしょう?』
何処の新世界を語っているのか知らないが、私は初耳だよ……そんな世界平和。
『ぐぬぬぬぅ……汚らわしい! やはり人間は害悪だ! どうしてそこまでう○こに執着する!? 排泄物に愛着のある下等な汚物に傾ける耳などないわっ!』
『……は? 排泄物っ!? あ、あなたは、いきなりナニを?』
ルインは、ここに来て動揺の色をアリアリと見せていた。
どうしてお前がそこまで動揺するのか……こっちが知りたいよ。
刹那、困ったルインを見かねたメイスが『俺の出番だ!』と言うばかりに胸を張って叫ぶ。
『俺の名前はぁっ!……』
ドゴンッッッ!
しかし、最後まで言い終わらない内にルインが杖でメイスと殴っていた。
「はぶわぁっ!」
結果、おかしな悲鳴を口から吐き出すだけに終わっていた。
……そろそろ、真打ち登場と行こうか。
『族長さんよ? ちょっと、私の知り合いが失礼な事を言ってたけど、人間は精霊語を上手に使えない。だからわざと下品な事を言ってた訳ではないんだ』
やや見かねる形で、私は二人の間に入る形で口を動かして来た。
「え? 私って……そんなにおかしな事を言ってました?」
そこでルインがキョトンとした顔になって私へと尋ねて来た。
私は苦笑いで言う。
「ああ、そうだな? う○こで愛を語ってたぞ?」
「ぐはぁぁぁっっ!」
ルインは、今にも吐血しそうな勢いで胸元をおさえて踞った。
そして、顔から火炎魔法でも発動させて来そうな勢いで真っ赤にさせた顔を両手で覆いつつ、ボソボソと呟いてみせた。
「だから精霊語は嫌いなんだ……うぅぅ……私になんて事を言わせるんだよ……うぅぅぅっっ!」
しばらく立ち直れそうもない勢いで塞ぎ込んでしまったルインは、湯気が出そうな勢いの顔を必死で両手で隠しつつ、そのまましゃがみ込んだまま愚痴めいた台詞を独りごちて行くのだった。
……ま、今は一人にして置いてやろう。
今回の失態に懲りて、次回からはちゃんと精霊語の勉強をするかも知れないしな?
何にしても、だ?
今度は私が族長と対話してやろう。
思った私は、族長精霊の正面にやって来ては、ニッ! っと、快活に微笑む。
『じゃあ、ここからが対話の本番だ。私はしっかりと精霊語が離せるからな?』
『……貴様等ごときに話す事など……あ、まて? ねぇ? それは何をする気だ? いや……うん! 分かった! 分かりました! 対話は大切だと私も思っておりました! 思ってたから、その右手を私に構えるなぁぁぁぁっっ!』
こうして……然り気無く向けた右手を見た族長は、快く私の対話に応じてくれる事になった。




