【8】
………。
なんでこんな事になってるんだ?
モンスターは無駄に強くなるし、転生者が何人も出て来るし……この上、伝承の道化師だと?
もう、世の中おかしい。
「どの時代でもそうだが、転生者の大多数は良かれ悪かれ戦乱の世を作り出した。恐らく……今回もご多分に漏れないのだろう」
パラスは苦々しい顔のまま、口だけを動かして行った。
そこから、暫く周囲は沈黙が支配した。
「う~。とりま、なったらなったで」
沈黙はシズのグッジョッブで破られた。
……お前な……。
「そんな呑気な事を言ってる場合じゃないだろうよ」
「う? じゃあ、どんな呑気なら良い?」
基本、呑気がダメだろ!
思わず呆れた私がいたのだが、そこからシズは真剣な顔になって言った。
「まだ『起きてもいない』事に絶望するなんて、リダらしくない」
………。
……なるほど。
一理ある。
そして、シズが言うリダこそ、いつもの私。
それもまた、その通りだった。
そうだ……そうだよ。
今まで一切の例外なく戦乱の世になったからと言って、今回もなるとは限らない。
あたしがさせない!
ついでに言おう。
「仮になっても、その時はその時かも知れない」
元々、そうなるわけだったんだしな。
そして、なったらなったで、その戦乱を私が止めれば良い。
いや、違うな。
「すまん、そうだなシズ。あんたの言う通りだ。私にはたくさんの仲間もいる。まだ落ち込むのは早い!」
……そうなんだ。
まだ、諦めるのは早い。
むしろ、これからが本番なんだ!
「そうだな」
パラスはポツリと言った。
でも、固かった表情がやんわりとなっていた。
「そうだね……その時はリダ。私も協力する!」
間髪いれずにルミが賛同した。
迷いのない、良い笑顔だった。
「当然、私も協力しますよリダ? その時まで、努力を惜しまず積みます!」
他方のフラウもやる気をみなぎらせて言う。
新しい目的が出来たと喜んでいる風にすら見えた。
はは……本当、お前ら、たくましいよ。
私も見習わないと。
そして、それを教えてくれたシズに感謝だ。
本当は、ただの防御壁を作る役として呼んだだけだったけど、それとは違う場面でも大きく助けになってくれたな。
……ありがたいよ、本当。
「ふふ……良い仲間をお持ちね。羨ましいわ」
他方で、ユニクスは一人寂しそうに笑っていた。
……ふぅむ。
「フラウ。ちょっと良いか?」
「……? どうしたのリダ?」
フラウはキョトンとした顔になりつつも、私の近くにやって来る。
「ちょっと聞きたいなぁ……ってな」
「なにを?」
「そうだなぁ……例えば、ユニクスをどう思ってたりする?」
「う~ん……」
フラウは少し頭を捻らせる。
しばし、悩んでから答えた。
「小さい頃から、ずっとバカにされっぱなしで、苦手な所も勿論あったけど……嫌いにはなれませんでした」
肩をすくめて言う。
「どうして?」
「確かに……いつもいつも私の事を小馬鹿にして、自分の優秀さを鼻に掛けてたのですが、その結果、今の私がいます。悔しさをバネに一生懸命努力した私が」
「……なるほど」
実際問題、フラウは一般生徒からすれば超優等生だ。
こないだの中間だって、私と言う反則的な存在さえ抜かせば一位だったし、今回の剣聖杯も一年生にして三位入賞。
まさに文武両道の天才だ。
いや、努力の賜物なのだから、秀才と言うべきか。
これら一連の努力の源がユニクスであったのなら、フラウの言いたい事も分かった。
努力をするにしても、やっぱり何らかのモチベーションがないと、長続きしない。
そのモチベーションを常に悔しさと言う形でフラウに与えていたのなら、ユニクスは最高の指導者だったであろう。
その手段は誉められた物ではないがな。
「ユニクスお姉がいなかったら、私はこんな努力もしなかったし、もっと色々と出来ない人間になってたと思う……だから、恨む気持ちや悔しい気持ちの先には、感謝の気持ちもあったんです」
そうか……本当、人間の感情ってヤツは一言では表現出来ない物だよな。
そして、私もその言葉を聞いて安心した。
「わかった。それなら、フラウ? ユニクスを死なせたくはないよな?」
「……当然でしょ? 憎らしくて頭に来て、途方もなく嫌いだけど、それと同じ位、好きな人なんだから」
つくづく、人間の感情は複雑だ。




