水の精霊達の逆襲【8】
「ともかく、今のは試験とは関係ないと言うか……試験に左右される事はあっても、試験とは全く関与しない相手でもあるんだよ。お前の右手にある人形ぐらい、あり得ない存在でもあるんだ」
「それは確かにおかしな事になっておりますねぇ……珍妙と言うか、複雑と言う意味ではリダちゃんと類似している部分はあるかも知れません。リダちゃんの構造は、かなり精密かつ複雑に造られておりますからね?」
私の説明に、バアルは納得混じりの声を吐き出していた。
全体的に肯定的な台詞を口にはしていたけど、人形に関しては完全に否定して見せる。
私としてはそこを一番肯定して欲しい部分だったりもするんだけどな……?
「ともかく、さっきのは魔導組合のスタッフとは全く関係のない、この山に住む野良精霊の類い……と言う事で間違いないのでしょうか?」
「そうだな。実際には現地の精霊と言うべきか?……ただ、すこぶる不思議で不明瞭な部分が多い。例えば……私が知る限り、川の族長精霊はここまでの能力を誇示してはいなかった。だが、実際に能力が大幅に上昇している」
「なるほど……それは確かに妙ですね。私の人形とは比べ物にならないまでの奇妙さがあります」
まだ言うか、コイツは?
結局、不自然かつ気持ち悪い人形に関しては一切認めなかったバアルは、顎に手を当てた状態で色々と思考を張り巡らす。
「どちらにせよ……詳しい事は、これから本人に聞く所だった。お前の持つ人形同様、不穏な謎をそのままにして置く訳には行かないからな?」
「そうでしたか……私のリダちゃんには微塵の不穏さなど存在してはおりませんが、リダ様の御意向には従います。早速、さっきの野良精霊を簀巻きにして、洗いざらい吐いて貰う事にしましょうか」
真剣な顔で答えた私に、バアルも真剣な表情を作ってから答えていた。
右手の人形に関しては、大概なまでの強情さを見せていたのだけが気になる所ではあるが、現状の私がやらなければ行けないのは、変態人形マニアを問い詰める事ではない。
思った私は、真剣な顔のまま目を渦巻きにしている族長精霊へと視線を向けた。
その先にいたのは、既にルインとメイスの二人によってロープでグルグル巻きにされた、族長精霊の姿が。
両手と両足首をロープで縛られて、完全に身動きが取れなくなった状態の族長精霊は、いつの間にか意識を回復していたらしく、憤怒の形相になってルインとメイスの二人を睨み付け、
『離せぇぇっ! 下劣で野蛮な人間めぇっ! 清廉なる川の精霊でもあるこの私に対しての仕打ちは、後で高く付く事になるからなぁっ!』
まるで親の仇でも見ているかの様な勢いで、口から怒号を撒き散らしていた。
ロープでふん縛られていて、完全に自由を失った状態だと言うのに、どうしてここまで強烈な悪態を吐く事が出来るのだろうか?
何気に素朴な疑問を心の中で描く私がいた時、メイスが比較的穏和な笑みを作ってから答えた。
『俺の名前はメイスってんだ、よろしくな!』
何故か自己紹介していた。
コイツは何がしたいんだろう?
『貴様の名前など、誰も聞いてないっ! バカなのかっ!?』
まぁ、そうなるよな。
私も今、少しだけメイスがバカに見えた。
腹立たしい顔になっていた族長精霊がいる中、それでもメイスは表情を変える事なく、声を返した。
『俺の名前はメイスってんだ、よろしくな!』
また、自己紹介してた。
……だから、何がしたいの? 自分の名前が好きなの? 自分の名前が最強だと思ってんの?
流石におかしいと思う私がいた頃、メイスが肩を竦めて答えた。
『ごーめんなです。コノ男は、自己紹介しか精霊語がしゃばらばさー』
しゃばらばさー……って、なんだよっ!?
きっと、ルインなりにメイスのフォローをしているつもりで精霊語を話しているんだろうけど、こっちもこっちで精霊語が得意ではなかったらしく、ハチャメチャにおかしな言葉を族長精霊に話していた。
ああ……もうぅ……なにやってんだか。
多分に、私がバアルと会話をしてた関係もあって、メイスとルインの二人が代わりに族長精霊から話を聞こうと思って、拙い精霊語を使ってまで意思疏通を取ろうと頑張ってくれているのだろうが……流石にちょっと難有りとしか言えない。
精霊語は自己紹介しか知らず、何を言われても返事が自分の名前になってしまうメイスは問題外ではあるが、発音がメチャクチャで何が言いたいのかを認知するのに少し時間を必要とする様なしゃべり方のルインも大概だった。
……まぁ、私もすぐに行動しなかったから悪いし、結果的に族長精霊を逃がす事なくロープで縛ると言う行動力だけを述べれば、やっぱりこの二人は有能だと評価出来るのだが。




