水の精霊達の逆襲【5】
『……何?』
水の巨大竜巻が、大空の彼方へと飛んでしまった光景を見て、族長精霊の眉がピクッ! っと動いた。
恐らく、族長精霊からしても予想外な防御手段であったのだろう。
「……す、素直に待避します、リダ会長!」
フラウが敬礼して、普段は絶対に言わない事をほざいていた。
似合わないからやめておけ。
それと……だ?
「私の事は会長と呼ぶなと言ってたろ? お前は私にとって学友だ……せめて、学園に在籍しているまでは、親友と言う立場を取らせてくれよ……」
苦い顔になってぼやく私。
すると、フラウは驚いた顔を一瞬だけ作ったあと、満面の笑みを作ってから頷いた。
「うん……そうだよね! リダは私の親友だと思う!」
何がそんなに嬉しかったのか? 目尻に涙まで作って相づちを打っていた。
微妙に大仰と言うか、そこまでの態度を取る様な台詞を言った覚えはないんだがなぁ……?
「ともかく、早く待避してくれ。いい加減、こいつを本気でぶん殴りたくてウズウズしているんだよ? 私はなぁっ!」
「……了解! 頑張れ相棒っ!」
実際に身体をワナワナさせていた私がいた所で、フラウが即行で頷き、グッジョブをして来た。
直後、フラウは近くにいた族長精霊に向かって口を動かす。
『ハヤク降参したらイイよっ! じゃないと死ヌねっ!』
毅然とした面持ちで、精霊語を使って断言していた。
本人はシリアスな口調で警告しているつもり何だろうが……微妙に発音が酷かった。
まぁ、ネイティブではない精霊語をちゃんと言えているだけマシなのかも知れないけどさ?
「フラウ……お前は、もう少し発音の練習をした方が良いぞ?」
「えっ!? お、おかしかった?」
やんわりと発音を注意した私に、フラウはガーンッ! って顔になっていた。
きっと、本人にとっては発音も完璧だと思っていたのだろう。
……いや、まぁ……意味は通じる程度の発音をしていたから、ちゃんと意思疏通は出来ていると思うけどな?
『何が言いたいのか分からないが……くふふふ……私が負けるとでも? 良いだろう? ならばお前から先に始末してやろうじゃないか!』
……って、ああああっっ!
意味が通じない方がマシだったぞ!
つか、お前! 余計な挑発なんぞしないで、サッサと待避しとけよ、もうっっ!
お前等を庇って戦闘するのって、かなり骨なんだよっ!
心の中で本音をぶちまける私。
想定外な出来事が発生したのは、ここから間もなくの事だった。
グォォォォッ!
空間がねじ曲がった。
これは……空間転移魔法っ!?
同時に私の脳裏に……いつぞやの光景がフラッシュバックされるかの様に、脳裏を過ぎ去った。
忘れもしない。
否……違う。
忘れたくても忘れられない。
この、妙にグニャリとした空間……実に不自然で、万物の法則など最初からクソ喰らえと言うばかりに無視した光景は、あの道化師が出現した時と全く同じ。
……まさか?
「う、うそ……だろ……?」
現状で、あの道化師なんぞが出て来たら、もはや戦闘なんぞしている場合ではない。
私を含めて全員逃げないと…………一瞬で殺られる!
愕然となりつつ……しかし、反面で現状のパーティー全員を安全かつ速やかに退避させる為のルートを冷静に考えた。
果たして。
「……おや? 空中? リダ様が居る地点にポイントを合わせた筈だったのだが? どうしてこの様な場所に?」
…………。
グニャリと曲がってやって来た存在は……私にとっても比較的身近な男だった。
見た目はショタ系の美少年をしているが、実際の所は好きに外見を変えられるので、この姿が本当の姿と言う訳でもない。
右手に握る妙な人形は……心成しか私に似ている気がするが……他人の空似と言う事にして置こう。
うん、そうだ。
そもそも、ヤツが私に酷似した人形を作って何をして遊ぶと言うんだ?
…………。
気持ち悪くなって来た……これ以上の事は考えない様にしよう。
ともかく、やって来た人物は道化師ではなかった。
やって来たのは、右手に私っぽい……いや、私じゃないよな? つか、私に似せてたら爆破させてやる!
……そ、そこはともかくとして、グニャリとねじれた空間から出現していたのは、元大悪魔にして現在は我が冒険者アカデミーで学長を務める者……バアルだった。
全く……紛らわしい登場の仕方をしてくれるなぁっ! もうぅぅっっ!
必死で退路を確認しようとした、私の感情を返して欲しい所だぞっ!
「……うん? そこにいるのはリダ様ではございませんか? すると、やはり転移先はここで正解なのか?……おや?」
空間転移魔法を使ってここにやって来たのだろうバアルは、そこで呆気に取られた顔をする族長精霊を発見し、不思議そうな顔を作っていた。




