水の精霊達の逆襲【1】
理由は分かるが、理解は出来ない。
私の意見を口にしろと言うのなら、この様な台詞が口から出て来る事になるだろう。
山神様は、確かに川の精霊を根絶やしにしてやろうと言う勢いだった。
それだけ怒り狂っていたし……場合によってはこの山一帯に生息していた川の精霊達が皆殺しに遭う憂き目だって、可能性として存在していた。
だけど、私の仲裁もあり、全てが穏便に解決した……筈だった。
「なんでこうなるんだろうなぁ……」
私は誰に言う訳でもなく独りごちた。
セツナさんを先頭に、超高速で木々の合間をすり抜けながら。
……そう。
滑空魔法を使う事なく、私達はセツナさんの自宅でもある山神様の社を目指していた。
試験再開を意味した為、滑空魔法が再び禁止事項になってしまったからだ。
この位はオマケしてくれても良いと思うんだけどな。
仕方がないので、私の発動した超補助魔法を発動した後、試験官であるタマコを抜かした全てのメンバーが陸路で山神様の元へと向かう選択をする事になったのだ。
最初はルインやメイスの二人も、ここで別行動になる物かと思っていた私ではあったのだが『もちろん私とメイスも一緒に行きますよ? 私達はパーティーなのですから』と言う、快くも頼もしい台詞を貰っていた。
それでも二人からすれば、山神様はなんの縁もない存在であったし、試験を優先したとしても全くおかしな判断ではないと感じていた私がいたのだが『これからトウキの国民を守ろうとしている俺達が、か弱い女性の一人も守れなくてどうするよ?』と、これまた勇ましい台詞をメイスが言って来た。
きっと、か弱い女性と言うのはセツナさんの事を指して述べているのだろう。
飽くまでも私主観ではあるけど、セツナさんは『か弱い女性』ではないと思うぞ?
ただ、このタイミングでそんなツッコミを入れるのは無粋も良い所だったし、その台詞を耳にしたセツナさんもまんざらではないと言う感じの態度を見せて……ルインが少しだけ機嫌を損ねていたりもしていたので……うん、まぁ……良いんじゃないかな?
最後の部分はグダグダな状態になっていたかも知れないが、私としては心強い仲間が多い方が良いに決まっている。
人生を左右する大一番の試験中に私の我儘を快く受け入れてくれた二人には、心から感謝したい所だ。
機会があれば、この貸しをしっかりと返して行きたい所でもあるな?
他方のフラウは最初から賛成していた。
だからと言うのも変な話だが、現在は私と並列する形で快走を続けている。
そんなフラウは少しだけ驚いていた。
何にか?
他でもない自分に、だ。
「どうでも良いけど、やっぱりリダの補助魔法って反則だよね……自分が超人か何かにでもなった気分だし」
答えたフラウのスピードは、確かに常人の域を軽く凌駕している。
当然ながら普段のフラウからは考えられないまでの身体能力でもあり、当の本人ですら未だ信じられないと言うばかりの表情をアリアリと見せていた。
私の補助魔法による効果が、フラウを超人にしていたのだが……その効力が余りにも強力過ぎた為、驚きの熱が未だ冷めない。
「補助魔法の大切さが良く分かるだろう? 実際に自分で体感すると分かるって言うか、さ?」
「……そうだね……私も少し補助魔法の熟練度を上げる努力をしようかな……って、思ったよ」
私の言葉に、フラウは比較的肯定的な声を飛ばして来た。
魔法と言うのは、体感すれば分かる部分もある。
まさに百聞は一見に如かずだ。
「リダさんの魔法は本当に凄いと思いますよ?」
そこで、先頭を行くセツナが私達へと声を掛けて来た。
私はちょっとだけ申し訳ない感じの愛想笑いを見せる。
「あはは……ありがとう。それで、申し訳ないな? 本当は一秒でも早く飛んで戻りたいと言うのに」
「とんでもないです。こちらはリダさん達にお願いをしている身ですし……何より、リダさんの身体速度上昇魔法が強力なので、かなりの高速で進む事が出来てます。この調子なら後一分程度で到着出来ると思いますから」
セツナさんはニッコリと笑みで答えて来た。
最初に会った時は、妙に突っ慳貪な山の精霊だな……と思っていたんだけど、どうやらそれはカワ子の落書きがあったからこその態度であったらしい。
思えば、あの落書きさえ無ければ、こんな超展開にだってならなくて済んだろうに。
そう思うと、あのイタズラ精霊だけでも、どうにかとっちめてやりたい衝動に駆られる私がいた。
「……ん? リダ? 山神様の社って、あれ?」
程なくして、並走するフラウが右手で指を差して見せる。
フラウが指した物は……間違いない、山神様の社だ。
少し遠いが……どうやら、破壊まではされていない模様だ。
まずは安心……と言う所かな?




