上位魔導師になりたくて!・最終試験【25】
心情的に言うのなら、実に薄情な選択ではあるのだが……魔導師組合だって一つの大きな組織でもある。
タマコ一人の勝手な行動如何で、世界に何万といるだろう全ての魔導師組合に所属する魔導師達へと迷惑が掛かる様な真似は出来ない。
そして、何より……。
「私は自分が蹂躙出来るよわっちい相手と戦うのが好きなんです! 水の精霊王とか言う……逆に蹂躙されちゃいそうな相手なんかに喧嘩を売る様なバカな真似なんか出来ません!」
……ってな事を、胸まで張って堂々と言えるまでにひねくれた性格をしていたのが致命的だった。
態度だけはやけに堂々と……実に雄々しい台詞を吐き出しているかの様な態度で口を動かしているが、その態度に反比例するかの様な最低な台詞をいけしゃあしゃあと言って来たタマコ。
これには私もイライラが止まらない。
……はぁ。
「仕方ない……わかった。取り敢えず、この一件は保留にしよう。試験を優先したいし」
私は肩を竦めて言うと……近くにいたセツナさんがこの世の終わりみたいな顔を私に向けて来た。
……そ、そんな顔で見ないでくれよ……ち、ちゃんと私にも考えがあって口を動かしているんだから。
「理解してくれたのでしたら幸いです。ともかくこの一件は、魔導師組合の方でも色々と話し合いをしなければならない案件でもあります……やれやれ、これからしばらく会議になりそうですね……私、会議と毛虫は大嫌いベストオブザイヤーで三年連続ナンバーワンを獲得しているぐらいに嫌いなんですよ」
三年前は違ったんだろうか?
……いや、そこはともかく……だ。
相変わらず自分事を念頭に置いて嘆息するタマコがいた。
こう言うのを自己中と呼ぶのだろうな。
だからして、私は言ってやった。
「じゃあ、これから試験再開で良いな?」
「え?……ああ、はいはい。探査のご協力、感謝します。特別な加点として10ほど私の方から工面しますので、残りも頑張って下さいね」
タマコはニッコリと笑みで言う。
きっと、ここは間違いではないだろう。
試験官の都合で加点10される試験ってのもどうだろう?……と、考える私がいるが、そこを一々ツッコミを入れていたのなら、この卵マニアと会話する事も出来ないだろう。
何故なら、毎回ツッコミを必要とする台詞を臆面も無く言ってくるからだ。
他方、ルインとメイスの二人は、私とタマコの会話を若干不本意ながらも聞くだけに留めていた。
なんだかんだで、二人も魔導師組合側寄りの存在であるし、山神様には悪いが結局は他人でしかないのだ。
自分の人生を左右するレベルの大一番で、いきなり脈絡なく助けを求められても困ると言うのが、二人なりの本音であろう。
他方のフラウも似た様な態度を見せていた。
……が、表情は明らかに不本意を極めていた。
フラウにとって、セツナさんも山神様も赤の他人だし、ルイン達と考えている事はそこまで変わらない。
けど、ある一点だけは大きく異なった。
困っている人を助けたいと言う気持ちだ。
今、この場で困っている人がいるのに……それを助けられるのは自分達だけだと言うのに『どうして助けないの?』と言う気持ちが、強いフラストレーションとして無意識に顔へと出ていた。
そして、思った。
お前もバカだなぁ……と。
利口に世の中を立ち回る事が出来ない人間なんだろうなぁ……と。
故に、思うのだ。
そう言うバカが、私はこれ以上なく大好きだ!
「じゃあ、これから試験再開だ。それじゃあ行こうか、セツナさん」
私はタマコに宣言し……セツナさんへと声を掛けた。
「え?……は、はい?」
セツナさんは、これ以上なく驚いた顔をし、頭にハテナを作りながらも疑問系の声を私に吐き出して来た。
話の流れからして、私がセツナさんの味方をする事はないと思っていたのだろう。
しかし、その答えに達するのは、まだ早すぎる。
「私はちゃんと、この試験通りに行動するぞ? ちゃんと二十四時間『この山に居る』し、試験者として行動するつもりだ。もちろん、戦闘が発生した場合は『ルールに従い逃げずに戦う』からな? ああ、後は強い脅威を持つ敵と遭遇した時は高得点が期待されるんだったか? いやぁ……これは狙わないと行けないよなぁ?」
「…………へ?」
わざとらしく、試験者としての立場を主張して答えた私の言葉に、タマコがポカンとなった。
間もなく、ワナワナと身体を震わせてから言う。
「まさか……水の精霊王に喧嘩を仕掛ける様な事は……ないですよね?」
「どうだろうな? 遭遇したモンスター次第じゃないのか?」
「いや、その口上だと、喧嘩売るでしょっ!? 分かってますよっ!? どう考えても売ります! ええ! 二束三文のバッタ売りです! 古本売るより安く売る勢いです! お店で売ってる商品ならバーゲンセール級の出血大サービスしちゃう勢いです! やめて下さいよっ! 本当に勘弁して下さいね! 釘刺しましたからねっ!? ドスンッ! と、五寸釘を刺しましたからねっ!?」
タマコはこれでもかと言うばかりの勢いでがなり声を口早に捲し立てて来た。
相変わらず、ツッコミを入れたくなる様な台詞だったが、もちろんツッコミは入れなかった。




