【7】
「う~う~。うううう~。う~っ!」
なんかやたらう~う~言ってるのが難点だが、そこは一先ず目を瞑ろう。
それより、本題だ。
「お前がここに呼ばれた理由はわかるよな?」
私は、正面に座っていたユニクスに向かって口を開いた。
ユニクスは視線を落としつつ、しかしコクンと首だけを縦に動かす。
「まず、質問だ。お前は人間か?」
「人間だよ」
答えたのはフラウだった。
……いや、お前には聞いてないんだが?
「だって、ユニクスお姉は私の幼馴染みだもの。お姉のお母さんだって知ってるし……」
「うん、まぁ、そうな。取り合えずペッタン子は静かにしていてくれ」
「ペッタン子言うなぁっ!」
叫びはしたけど、素直に静かになったペッタン子。
「……で、どうなんだ? ユニクス。あんたは本当に人間なのかい?」
「……今は、人間だ」
「今は?」
なんて、意味深な事を言うんだろうね、この人は。
「どう言う事だ?」
「転生者……そう言いたいんだろう?」
答えたのはパラスだ。
転生者?
それって、予見をしてた人間の事じゃなかったのか?
「……そうだ」
……なんだと?
「今一つ、話の先が読めないんだが?」
「簡単な事だ。転生者は一人ではない」
……なるほど。
どうやら、パラスは少し何かを知っている様な顔だった。
なんだよぅ……それならそうと、先に教えてくれたって良いのにさぁ。
「私の前世は……下級の悪魔だったのさ」
「……なっ!」
ユニクスの話を聞いて驚いたのはフラウだった。
多分……いや、確実に初耳だったんだろう。
仮に聞いてたとしても、信じられない話だろうがね。
「そ、そんな……」
動揺が顔から見る間に広がるフラウを尻目に、私は再びユニクスに質問してみせた。
「その下級の悪魔だったあんたが、どうして人間になんかなったのさ?」
「それに関しては私も良くわからないのさ……私が分かる事と言えば、悪魔同士の下らない闘争に巻き込まれて死んだ時、道化の様なヤツが私の前にやって来て、こう言ったのさ」
『世界を変えてみないか?』
「……と」
……はぁ?
道化?
世界を変えてみないか?
「さっぱり、話が見えないんだが?」
「当時の私は、その世界が嫌いだったのさ……いや、憎んでいたとさえ思う」
「……ほう」
「世界の大多数を人間に取られ、雀の涙程しかない領地を奪い合い、騙し合い、力で相手を屈服させる事を何度も何度もやって来た。下級悪魔の私にとってそれは単なる地獄さ。最後には良いようになぶられて……殺されたよ」
言い、ユニクスは最後に歯を食い縛った。
力が全ての世界。
きっと、そんな世界だったのかも知れない。
力がないのなら、悪知恵を働かせて、色々な画策を練って相手を陥れる。
そうでもしないと生き残れない……そんな世界だったとしたら、私も世界を憎むかも知れないね。
「私は道化の質問に頷いた。世界を変えたいと言うより、この世界その物をなくしてやりたい。そう思っての事だった」
なるほどなぁ……。
良い様に使われて、無様に殺されただけなら、嫌でも憎しみは生まれる。
悲しい負の連鎖でもあるな。
「道化の誘いに乗った私は、気づくと今の私……つまり、人間に転生していた。これは特に私が希望したわけではない。結果として道化が私を転生させたんだ」
「なるほどな」
ユニクスの言葉に、パラスが納得混じりの声音を吐き出した。
そこからパラスは、私に顔を向けて再び口を開く。
「コイツの言ってる事は間違いない。恐らく、この道化は……戦乱の世が始まる時に現れると言う伝承の道化師なんじゃないかと思うんだ」
伝承の……道化師だと?
「歴史に出て来る、あれか?」
私は思わず苦い顔になったね。
この伝承の道化師は、パラスの言う通り、確かに何百年かに一回程度の割合で出て来る。
なんの目的なのか知らないし、理由も不明なのだが、大体二~三百年に一回程度の周期で歴史の中に顔を出して来る。
そして、この道化師が現れた時、一切の例外なく世の中は動乱期を向かえるのだ。
「以前に伝承の道化師が現れたのは、今から二百五十年前。その時も百を越える転生者がいたと言われている」
つまり、今と同じ……と言う事か。
「転生を果たした転生者は悉く類い希なる能力を持って産まれ……そして野望を抱いた」
今のユニクスの様に、世界を忌み嫌う者に力を与え、転生させた結果が、そうなったわけだな。




