上位魔導師になりたくて!・最終試験【24】
反面、考え過ぎかな?……と考える部分もある。
今回の一件に、あの不気味な笑いを見せる奇妙な道化師の姿は一切ない。
ヤツの事だ。
仮に関与しているのなら、こっちが呼ばなくても勝手に出て来るだろう。
しかし、ヤツの気配は感じられない。
そうなると……考えられる事は二つ。
一つは、根本的に関与していない或いは、関与していても直接的な物ではない。
そうであるのなら、ヤツと直接対峙する事はないだろうし……現状ある問題を解決する可能性もある。
そして二つ目は、私が察知出来ないまでのレベルで隠れている事。
この仮定が当たっていたとしたら……私達にとって、絶望しかない。
あれから、私もかなりトレーニングを積んで、着実にレベルアップしたつもりではあるんだが……しかし、それでもあの道化師を倒せるだけの能力はない。
否……勝負にすらならないだろう。
凄まじく悔しいけどな……。
どの道……現状では、あの道化師が関与している可能性があると言うだけで、関わっていると断定可能な材料がある訳ではない。
飽くまで、可能性の一つとして……思考の片隅辺りにでも留めて置こうか。
その件は、これ以上考えた所で答えが見えて来る訳ではないので、一旦ここまでにして置こうか。
それより、現状で優先すべき事は他にもある筈だ。
ここまで考えた時、私はふと思った事がある。
「そう言えば、山神さまは無事なのか?」
思い出した様な形で尋ねた私の問を耳にした瞬間……セツナさんの顔から血の気が抜けた。
「……そうでした。山神様は突発的に出現した水の精霊王によって強烈な一撃を受けて避難しました……現在は私達の自宅でもある神社の何処かに防御壁を張って、どうにか難を凌いでいるとは思うのですが……」
そこまで答えたセツナさんは目線を下に落とした。
きっと、そこから先の話はセツナさん自身も知らない事なのだろう。
それだけに、続きとなる話はなく……ただ口をつぐむだけとなっていた。
しばらくして。
「虫の良い話だとは思います……思いますが……お願いです! 山神様を……私達を助けて貰えませんかっ!?」
セツナさんは切実な表情をアリアリと見せ、全力で私へと懇願してみせる。
正直に言うのなら、もちろんセツナさんを助けたい。
確かに山神様は川の精霊達に強烈な制裁を下した……否、下そうとした。
だが、実際には未遂に終わっているし、実害が出る前に山神様が川の精霊達を許すと言う形で終わっていた。
また、川の精霊全てが連帯責任を負うと言うのは些かやり過ぎだったとは言え、山神様の怒りもごもっともと言う様な行為を平気でやっていた事も事実だ。
これら諸々を考えるのなら、水の精霊王がわざわざ降臨して、土着の山神様へと報復すると言うのは完全なる過剰報復なのだ。
……本当、どうしてこんな事まで発展しているんだが。
途中の成り行きまでは、アリンやメイちゃん達と一緒に事情を聞いてはいたが……そこから、水属性の精霊を統率する精霊王が降臨して来るまでに至る経緯まではサッパリ分からない。
そこらを含め、私も協力をしたい気持ちではあるんだが、近くにいたタマコ試験官がジェスチャーでペケを作り出しているのが気になる。
どう考えても『私は関わりたくありません!』の図だ。
仕方がないので、説得を試みようと口を動かした。
「タマコ? この一件には、私も少しだけ縁がある。それにお前達の職場でもある山の危機に繋がりそうだ。ここは上位魔導師らしく、問題を解決する方向で協力してはどうだろう?」
「無茶言わないで下さい! 水の精霊王ってあれですよね? 水を司る神様みたいな精霊ですよね? 水属性では最強の精霊ですよね? そんなの相手に魔導師組合が喧嘩した……なんて事になったら、他の精霊王にも目を付けられるかも知れないじゃないですかっ!? わかりますか? あなたが行おうとしている事は、世界中の精霊を敵に回しかねない行為をしているんです! それなら、ここの施設を放棄した方が一万倍と二千倍はマシです! ええ、そうですとも! 八千倍過ぎた辺りから恋しくなるまでに分かりやすく破棄を選びます!」
どうして一万倍と二千倍を分けて説明する必要があったのかは甚だ謎ではあったが、タマコはここぞとばかりに捲し立てて来た。
タマコの言い分はごもっともだった。
水の精霊王にどの程度の協力者が発生するかは分からないが……一人や二人ではない事だけは確かだ。
もちろん、別の精霊王が一人でも動けば、それだけで事件レベルではあるのだが……これから起こる事を加味すれば、そのレベルすら可愛い事態へと発展してしまう事は容易に判断出来る。
それだけに、ここで水の精霊王へと反発する様な態度を魔導師組合のスタッフでもあるタマコがやってしまえば……事態は確実にとんでもない事になる危険性があるだろう。




