上位魔導師になりたくて!・最終試験【13】
「そうか……ルインは、この試験で上位魔導師になって、トウキのみんなを守る為の職に就く予定だったのか」
同時に、トウキでは最高峰の治安部隊の一つでもあった為、私はルインに感心する。
気弱な部分こそ心配にはなるが、きっと立派にトウキを代表する魔導師になるだろう。
「あはは……そうですね……私の様な意志薄弱な魔導師でも、みんなの為に頑張る事が出来るのなら……精一杯、頑張りたいなと思ってます」
眼前の罠を次々と消して行きながら、ルインは少し上気した表情で私へと答えていた。
真面目な上に健気過ぎる姿だった。
こう言うのを見せられたらさ?……応援したくなるのが人情って物じゃないか?
気弱な部分も含めて、何処か放って置けないと言うか、色々と助けたくなる。
何だかんだ言って、フラウの相棒をしている以上は、フラウの合格を最優先する事になってしまうのだろうが、同じパーティーとして協力している仲だ。
ここは、ルインの合格の為にも、私なりに出来る事をやる様にし行こうじゃないか。
そんな、人間として立派だと思えたルインが、呼吸をするかの様な勢いで罠を消滅させて行きながら、歩を進めて行く。
気付けば、後方を歩く私達が何をする訳でもなく、最初のチェックポイントまで到達してしまった。
……なるほど。
最初に言っていた『嫌な予感がする場所』から比較すれば、ルインにとって天国の様に可愛いゾーンだと言っていた意味が、ここに来て良く分かった。
かなり巧妙かつえげつない罠とかあったりもしたのだが、それらを含めた全てのトラップを鼻唄混じりに解除する事が可能だったルインからすれば、それは障害でも何でもなかったのだろう。
普通の人間なら難関であったかも知れないし……私とフラウの二人だけであったのなら、かなりの時間と労力を消費して、ようやくチェックポイントに到達していたに違いない。
それらを加味すれば、ルイン達と一緒に協力し合えると言うのは、とんでもないメリットが存在していた。
何はともあれだ。
地図を見る限り、チェックポイントと思われる部分に現在地を意味する光が灯っている。
つまり、現在の私達がいる場所が、魔導師組合の提示したチェックポイントで間違いはないみたいなのだが……?
「何もないね?」
こうと答えたフラウの言葉通り、周囲には何もなかった。
「……そうだな?」
おかしいな?
地図を見る限りでは、ここで間違ってはいない筈なんだけど……?
額の辺りを人差し指で軽く掻きながらも周囲を見渡した時、
「……ん? あれは何だ?」
張り紙が宙に浮いていた。
何とも珍妙な光景だった。
物理的に考えるのであれば、当然ながら張り紙が何の支えもなく空中遊泳なんぞする訳がない。
けれど、今回は魔導師組合の試験だ。
なんらかの浮遊魔法を張り紙に付加する事ぐらい、朝飯前なんだろう。
「なんだろうねぇ……えぇと? 何か書いてあるみたいだけど?」
私の声を耳にしたフラウも、浮遊する謎の張り紙を前に、片眉を寄せながらも見据えた。
「……本当ですね?『上を見ろ?』でしょうか?」
フラウの言葉を耳にしたルインは、張り紙に書かれていた文字の内容を音読して見せる。
この言葉を耳にした私達は一斉に張り紙の上を見た。
すると、今度は別の張り紙が上空をフヨフヨしているのが分かる。
やっぱり文字か書かれており『右を見ろ』と書かれている。
文字の通りに右を見ると、これまた文字が書かれていた。
書かれていた文字は『バカが見る』と書かれていた。
ドォォォォォォンッッ!
取り敢えず、爆破した。
「……ったく、誰がこんなふざけた真似をしてんだよっっ!?」
余りに幼稚過ぎる、いたずらの様な張り紙を前に、私が苛立ちを隠せない状態でいると……背後の方から声がやって来る。
『ふむふむ……こんな安い挑発に乗るとは……上位魔導師にあるまじき態度ですね。減点5と言う事で』
何処からともなく姿を現したのは……タマコ達の仲間と言えるだろう、試験精霊だった。
見た目ではタマコ何号なのか分からないし、一括りで『試験精霊』で良い様な気がするが、ポイントはタマコが何号であるのかではない。
何やらメモ帳の様な物を所持していた試験精霊タマコは、メモ帳へとペンでサラサラと文字を書いていた。
きっと、張り紙の内容に激怒して爆破してしまった事に関しての内容を書いているのだろう。
……くそ、これも試験の一つだったのかよ。
「リダ……いい加減、何でもかんでも爆発するのは止めにした方が良いと思うよ……」
物凄く苦い顔になってフラウは私に言って来た。
返す言葉もないと言うのが私なりの答えだった……。
「すまん……まさか、こんな幼稚な物まで試験対象になっているとは思わなかったんだ……」
『ほぉう? 幼稚と言いますか? 言ってしまいますか? その言動も減点対象にしますよ? この罠は私なりにもお気に入りのトラップでもあるのですからね?』
……ぐぅむっ!
メモ帳片手に、半ば脅迫まがいな台詞を口にして来た試験精霊を前に、私は悔しさを抱きつつも押し黙った。




