上位魔導師になりたくて!・最終試験【12】
「改めて、ありがとうルインさん。お陰で助かったよ」
フラウは笑みで答えた。
今度は引き釣り笑いではなく、ナチュラルな笑みだ。
自然な笑みを作り出したフラウに、ルインも少しだけ心を打ち解けたかの様にはにかんでは、
「どういたしまして……」
語尾は、やっぱり下降傾向にあった物の、心の距離感的な物は若干狭まった……そんな風に受け取られる態度をフラウに示していた。
この調子で、私に対しても心の距離を縮めてくれるとありがたいんだが。
「……それにしても……これは、どうした物かな」
程なくして、私は視線を前に向けて苦い顔になってしまった。
眼前には無数の罠、罠、罠!
私が察知する限りで、360度パノラマで罠がギッシリと設置されている。
これは何だ? 魔導師組合が気合いを入れた嫌がらせか?
くそ……侮っていたぞ!
あの面倒臭がりな魔導師組合が、ここまで手の混んだトラップを仕掛けて来るとはっ!
正直、一歩進む毎に罠を解除しなければならないレベルの状況に、思わず唇を噛み締める私がいた時だ。
「一応の予測はしていましたが、やっぱり良かったです。この程度であるのなら簡単に処理出来そうですから」
ルインはにっこりと微笑みながら答えて行く。
「……え?」
私はポカンとなった。
唇を噛み締めていた口も、ぽっかりと開いてしまう。
いや、待て?
これ……かなり凄まじい事になっていると思うんだが?
唖然となってしまう私がいる中、ルインはにこにこと穏和な微笑みを作りながらもトラップ地帯にズンズンと進んでしまう。
え? いや……ちょっと?
「あ、大丈夫なのか? ルイン?」
余りにも堂々と進んで行くルインに、思わず心配してしまった私がいたのだが……。
ルインが進んで間もなく、スゥゥ……と、罠が自然消滅する形で消えて行く姿に、二度びっくりしてしまう。
な、なに?
「ど、どうやってるんだ?」
「え? 普通に罠を解除しながら進んでいるだけですよ?……こんな感じで」
再び呆然となってしまう私を前に、ルインは涼しい表情で罠を消滅させて行く。
……そう。
それは『消滅』だ。
ルインが右手を向けると、罠が勝手に溶けて無くなる。
根本的なメカニズムと言うか、詳しい仕組みとかは分からないが……飽くまでも肉眼で見た光景をありのまま言うと、そんな現象が起こっていた。
「あらかじめ、どんな種類の罠があるのかを察知していましたから。解除方法も折り込み済みなので……後はそれを解除しながら進んで行くだけで良いのです。ほらね? 然程難しい事ではありませんよね?」
十分難しいからな?
しれっと……あたかも、足し算を説明しているかの様な口振りで言って来るルインに、私は思わず苦い顔をしてしまった。
すると、最後尾の辺りを歩いていたメイスが私とフラウに言って来る。
「ルインぐらいの臆病者にもなれば、罠を察知する程度の芸当は楽勝って事なんだよ。そう考えると腰抜けって言う性格もマイナスな感情ではないのかも知れないよな?」
「メイス……後で殴るから、覚悟しておいて」
「まさかの殴り宣言っ!?」
軽やかにディスるメイスに、ルインが冷たい視線を送っていた。
隊列的に先頭のルインと、最後尾のメイスだと彼女の杖が物理的に届かない結果の殴打予告なのだろう。
どうでも良いが、本当にメイスと言う男は、どれだけ殴られたら自分の言動で殴られている事に気付くのだろうか?
他方のフラウは、ルインの能力を見て素直に感心していた。
「ルインさんって天才? 私も色々と凄い人を見た事があるけど……ここまで罠解除に特化している人はみた事がないよ! 冒険者になったら、一緒に高難度ダンジョンに行きたいかも!」
「そ、そんな怖い所……私には無理です……」
嬉々として答えたフラウに、ルインは両手でブンブンと激しく振りながら、行くのを拒否していた。
メイスじゃないけど、基本は臆病なんだから、好きこのんで高難度ダンジョンなんかに行くとは思えないな。
「わ、私は……自分の祖国で帝国魔導師になる事が夢なので……冒険者にはなる予定はありませんでした」
直後、付け加える形でルインは私達に自分の進路を答えて来た。
帝国魔導師か……なるほど。
「ルインのレベルなら十分出来そうな職業だな? 頑張れよ」
私は軽くエールを送る形で答えた。
トウキ帝国における精鋭魔導師の組織が、帝国魔導師だ。
ニイガ王家の宮廷魔導師と同じで、トウキの中では最強の魔導師軍団でもあり、高い名声を誇る。
もちろん、それだけの組織なので入団するには相応の厳しい条件が課せられており、入っているだけで周囲から一目置かれる魔導師になる事は受け合いだ。




